ワンパンマン
□ざまあみろ
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八月十五日の、朝のことだった。
いつもの通り、ボロスは朝七時に起床する。いつもよりなぜかとても眠たかったが、それを制せないようでは宇宙の覇者は務まらない。普通に起きた。
「あ、ボロス。おはよ」
シオリが起きるのは朝の八時。彼女はもそもそとボロスが焼いたパンや目玉焼きを食べる。
「…今日は何をする気だ」
「んー…盆だけど、私みなしごハッチだから先祖を弔う気もないし…グダグダと過ごそうよ。昼すぎたら公園に行こ」
「わかった。俺はその前に本を返してくるから、しばらく公園で待ってろ」
「了解」
ふとシオリが窓の外を見ると、陽炎がたったかのように、景色は揺らめいていた。
***
「待たせたな」
「…うん」
公園に行こうと誘いだしたのはシオリだったが、あまりの暑さにクラクラしそうだった。
「ボロスは涼しげな顔だね…?」
「このタンパク質の皮膚の下は本来の皮膚だ。これくらいは暑くない」
「羨ましいわ…」
みゃーお、と足元の黒猫がなく。珍しく、人懐っこい猫のようだ。抱っこして、とでもいうかのようにすり寄ってくる。
「ごめんね、この暑さの中、君をだっこする勇気はないからこの人の抱っこしてもらってね」
ひょいっとボロスに手渡す。途端にシャーッと牙をむいた。
「…」
「やっぱり宇宙人だからねえ…」
それでも彼は何を思ったか、猫を離さずに抱きしめていた。
「っあー、やっぱり夏は嫌いじゃー」
「なら何故外に出ようとする」
「うーん…休みだから、ちょっと他とは違うことしてみたくなるでしょー」
「そういうものか…?」
「…じゃあ他とは違うことついでに、その猫抱っこしようかなー…」
と、半ば強引にボロスからひきはがす。今まで毛を逆立てていた猫も途端に嬉しそうに鳴いた。
「おお…かわいい、かもしれない」
「…お前は動物が好きなのか?嫌いなのか?」
「うん、嫌い。本当はね」
そう言った瞬間、その言葉が勘にさわったのか、猫が彼女の腕から逃げ出した。
「あ」
思考もはかどらない暑さの中。
彼女は無意識に動いていた。
そして走った先にあったのは
赤に変わった信号機と
大きな大きなトラック。
あ、死ぬ。
彼女は確信した。
これは無理だ。ひき肉だ。ああ短い人生だったなあ、ボロスはこの後どうやって過ごすのだろうか、他の女と恋におちたらやだなあと思いながら、目を瞑る。
だがしかし。
なぜか衝撃は前からではなく、横から飛んできた。
一瞬の浮遊感
が、まるで何かに抱えられたかのように安定感があった。
トタッ、と自分の足が地についている感覚もした。
恐る恐る彼女が目を開くと。
「っは?」
先ほどの公園とは反対側の歩道に立っていた。
なんだ、今のは夢か。
しかしトラックも止まっているし、周りの人も驚いたようにこちらを見ている。
そしてなぜか隣にボロスもいる。
「…暑い。帰る」
「ちょ、待ってよ、さっき暑くないって」
「うるさい。暑くなったのだ」
「え、えー…?」
思わず先ほどまでいた公園を見る。
二人が座っていたベンチが『まるで何かの衝撃が突然与えられたかのように』バラバラになっていた。
その景色は陽炎のせいか、揺らいでいた。