ワンパンマン

□ある夏の日
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まだヒーロー協会も設立して間もなく、A級までしか存在していなかった時期。
それはそれは暑い、夏のある日のこと。

暑かった。とにかく暑かった。
どれくらい暑くて熱かったかというと、普通に歩いていたのに靴のゴムが焦げるくらいだ。
最近思うんだが、ジーナスの大馬鹿野郎様は人体を復活させる研究より、物をある程度復活させるような研究すれば良かったと思う。
こんな時なんか大助かりだろう。あー、くそ。いつか絶対殺してやる。

そしてこんな時に限って信号運が悪かったりする。三度目の赤信号に舌打ちが炸裂。
日差しがいてーなと思いつつ、辺りを見渡した。見事なまでにコンクリートジャングルだ。

視線を前に戻した時、一台のタクシーが目の前を通り過ぎた。
うわ、羨ましい。あの中ぜってー涼しいわなんて思っていると、右斜め前のビルまえで止まる。俺は何とはなしにその光景をぼんやり見つめる。

そしてその客人が出てきた。

「っ…!」

客人――女を見た瞬間、ぞわぞわっと何かが俺の身体を走り抜けるような、雷が自分に落ちたような、不思議な感覚が俺を襲った。
長年止まっていると錯覚していた心臓が、どくりどくりと動いている。
都市伝説並びに古今東西の少女漫画でお馴染み。

そう、一目ぼれ。

いつのまにか信号は青になっていたけれど、んなことはもはやどうでもいい。
記憶力がいまいちさえないこの脳みそに、女が入って行ったビルの名前と住所を叩きこんだ。

「っは…」

自然と笑みがこぼれる。

楽しい人生の、幕開けだ。

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