ワンパンマン

□とある食卓での話
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「うわあ、今日も珍しいキノコありがと!」

「ふん山の頂上辺りまで行かなければ採れないからな」

「相変わらずの脚力ですなー」

今どきどこで売ってんだかわからない忍者服を脱ぎ、部屋着となった彼はすっかり…その…普通の人だ。うん。

「いただきます」「いただく」

(怒られるから言わないけど)

ご飯の湯気の向こうの彼は、黙々と食事に徹していた。

(「普通の人」になってるときの彼の方が好きだ)

じゅわりと広がる濃厚なキノコの風味。

(だっていつもより近い存在に感じるもの)

「…何をさっきから」

「気づいてた?」

「当り前だろう」

「まあちょっと思うところがございまして」

「…俺に隠しごとか?いいだろう、シオリ。たまには真剣勝負でもするか?」

「いやいやいやいやクナイ、よくない。あ、ごめ、ダジャレのつもりは」

「ああああああもういい!!貴様といるといつも調子を狂わせられる!!」

ガンッ!と叩いた衝撃で空に浮かぶ食事。それを一瞬でもとにもどしたソニック。
嘘。しっかり戻ってはいないぞ。

「私の肉取ったな?」

「なんのことだ」

「はっはっはっ…死をもって償い給え」

「貴様の箸で俺が殺せるか」

「ちくせう!」

ダーツの要領で飛ばしてみた箸はパシッと彼の手の中におさまった。

「ごめん、ありがとう」

「ほう…この俺が貴様のために腕を伸ばして箸を返すと思うか?」

「お前、器ちっせーな!」

やいやい言いあいして、気がついたらもう夜中。

「はあー、もう。しょうがないな」

よっこらせと立ちあがって彼の方へ向かうと…おやおやおや?いつの間にか天地が逆さになっていた。
そして天井の代わりには、満面の笑みのソニックがいて。

「どいてよー。今なら転んだことにしてあげるから」

「貴様の背中に衝撃がいかないようにする転び方を俺は持ち合わせていない」

「つまり?」

「押し倒したのだ」

「満面の笑みで言ってんじゃねーぞこら」

ふいに視界が暗くなり、唇に柔らかい感触。
まるで味わうように動かしてくるもんだから恥ずかしくてたまらない。その上。

(ちょ、長い長い)

とんとん、と背中を叩くとようやく離れていく彼の温度。名残惜しさを感じる間もなく、ソニックはそのまま私の首筋に顔を埋めた。

「…あの赤いキノコだがな」

「うん?」

「惚れ薬だ」

「まじですか」

「だからもう、お前は俺から逃げられないぞ」

再び唇を覆われる数秒前だった。

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