ワンパンマン

□誰にも知られずにこの恋が終わっていく
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好きだった。好きだった。どうしても手放しくなんてなかったのに。

白無垢を着た彼女を見ながら浮かぶのは、決して祝いの言葉ではなかった。

「サイタマさん!」

俺を見つけた瞬間にパアと花が咲くような笑顔が現れる。今までのどこか能面みたいな表情より、こっちの方がよっぽど似合っている。

「おいおい緊張してんじゃねーよ」

「す、するに決まってます!サイタマさんもやってみればいい!仕来たりやら作法やらもう両の手では数えられない…」

がっくりと肩を落とす彼女にいつのまにか口角が上がっていた。ああ、やっぱり俺は。

「…旦那さんと、幸せに、な」

それを言った時、一瞬彼女の顔は複雑にゆがんだ。

「…ありがとうございます」

知っている。
お前があいつのことを好きじゃないこともこれは政略結婚ということもあいつは愛人が何人もいることもこの結婚は元々お姉さんのもので姉を守るために自ら名乗り出たことも決してこの先彼女が俺に会えなくなることも。

お前が俺に好意を寄せてくれていたことも。

全部、全部俺は知っている。

「なんか嫌なことがあったら、いつでも俺に言いに来いよ」

俺は知っていることを彼女は知らない。

「はい!サイタマさんは私のヒーローですからね!」

「おう」

その言葉が震えていることに、気付かなければよかったのに。

「お前を、このまま…れ…のに」

「…え?」

「そろそろ時間だな。じゃ、俺式場の方に言ってるから」

「まっ、て!今なんて」

「じゃあなー」

式場ではなく玄関に行ってから、はじめて振り返った。
彼女はもう、俺を見てはいなかった。

それでいい。

――お前を、このまま連れ出せたらいいのに。

女々しい男の想いなんて、知らなくていいことなんだ。


Title by 確かに恋だった

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