ワンパンマン
□宇宙人拾いました。2
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昼休み中、喫茶店で買ってきたサンドイッチを食べていると、女の同僚の集団に囲まれた。
「ねえシオリさーん」
「…なんですか?」
ここ数ヶ月であまり話したことがない同僚から話しかけられると身構える癖ができてしまった。
いや、昔から嬉しくはなかったけど、最近は理由が決まっているのだ。
「シオリさんって、あのイケメンさんと付き合っているんですかあ?」
ほらな!!!
ヒクッと引きつる口元。
だがここで黙っていたら、何があるかわかりゃしない。
「そうだけど」
なにか?
そんな意味をもたせて笑うと、相手がたじろいだのがわかった。
思ったより私が強気だからだろう。
…いや、別に何か策があるわけではないのだが。
「い、いえー。どこでお会いしたのかなあ…って気になって」
そしてこの質問も多い。
何なんだ。そんなに私がイケメンと付き合ったらおかしいのか。もしくはイケメンが一人そこにいたら周りもイケメンになると思っているのか。
「…宇宙船が落ちてきた日があるでしょ。その日に怪我してたから治療しただけ」
まあ完全な嘘だとボロが出るからね。
これなら私は言わなかっただけだ。
「へ、へえ…」
ところでどうしてみんな今のを聞くとドン引きするんだろう。
***
「そりゃお前。真似できねえって思ったからだろ」
タバコをふかしながらお悩み相談所は答えてくれた。
「えー…少なくとも救急車呼ぶとかしない?」
「九年前までならな」
白い煙にむせながら九年前?と首をかしげる。
「ごめんね。そのときちょうどエナミちゃんの家に引き取られたばっかでニュースみてないや」
「…エナミ、ちゃん?」
「何か」
「…いや、会社ではしっかり社長と部下なのに、プライベートだとそう呼ぶんだな」
はあああ…とため息を吐くと、彼はタバコを灰皿に押し付けた。
「九年前、一人の女性が倒れていたけが人を発見した。慌てて救急車を呼ぶが、それが仇となり搬送中に突如怪人化。救急車に乗っていた者全員死亡。
…中々衝撃的な事件でな。俺もアルバイトで怪人倒しに行った。強さだけならレベル鬼だろうな。しかし、やっと倒したと思ったら…ただの人間の死骸だった」
「…つまり?」
「寄生型だったってことだ。本体は殺していない」
「まだ?」
「まだ」
ようするに、その事件が原因で怪我人は放置気味な風潮ができあがったのか。
一人で納得していると、呆れたようにゾンビさんは再びため息をはいた。
「つーかヒーロー協会のホームページにトップに『けが人は寄生型怪人の可能性があります。よほど重傷でない限り放置してください』って書いてあんぞ」
「…薄情な世界デスネ」
寄生型怪人どころか、まんま宇宙人を拾ってしまった私はスススと視線をそらす。
「でも、それだと本当に怪我してる人とかまずくない?」
「…それがよ。いるんだわ。自分の危険を顧みず必死に応急処置してくれる、優しいC級ヒーロー1位と彼の心意気にほれた奴らが。しかもその中にある財閥の社長がいてな…」
「おっふ…」
無免ライダーさん、恐るべし。
「ま、現状それで持っているんだ。二度とけが人は拾うなよ」
「…はーい」
前から思っていたけど、ゾンビさんって面倒見がいいな、本当。
「んじゃ今回の相談料のことだが」
「タバコ吸ったじゃん!」
「これは俺のステータスだ。質問に答えろよ。…お前、あのイケメンとどこまで進んだ?」
「ぶふっ」
コーヒー噴いた。
「っ、ごほっ、ゾ、ゾンビさん。それはセクハラじゃ…」
「だったら二度と恋愛相談なんかしてくんじゃねえぞ」
「このやろ…」
上から目線に腹が立つ、が、事実この相談所に頼りっきりなので、できなくなるのは勘弁してほしい。
「で?結婚するのか?」
「気がはやい!!…何もないですよ」
「はー?」
嘘付け、という彼に、私は完全に涙目になって叫んだ。
「だから!!キスすらまだだって!!!!」
もう何言っているんだろう、私。