ワンパンマン

□ざまあみろ
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一体今のはなんだったのだろう、と彼女が悩んでいる間も、ボロスはずんずんと進んでいく。

「ボロス、速い!」

「気のせいだろう」

取り付く島のないとはこのことだ、と思わずため息をもらす。

ちょうどその時工事現場の前を通りかかった。

「はい通行者でーす」

「はいよー」

というお馴染みの掛け声が当事者たちの間で起こる。

「じゃ、気をつけてお通りください」

「ありがとうございます」

ニコニコと炎天下の中も汗だくで働く彼らに感心する。

「すごいねー、こんな中」

「それでまともに仕事をするのであればな」

「?」

首をかしげたその瞬間。

「っあああああ!!!」

上から悲鳴。反射的に上を向くと、そこにあるはずの太陽が見えなかった。

なぜならそこでは何十本もの鉄柱が、落ちている真っ最中だったのだから。

「っ」

目を見開く。

そして彼女は視界の中でとらえた。
隣にいるボロスが、大きく手を動かしたのを。

次の瞬間、爆音ともいえる音とともに、その鉄柱が落ちてきた。

「…わーお」

彼女たちの周りにはいくつもの鉄柱が突き刺さっていたが、本人たちに傷はない。
当り前だ。ボロスが薙ぎ払ったのだから。

もし彼がいなかったら…と想像するだけでも恐ろしい。串刺しだ。

「っ大丈夫っすか!」

「ええ大丈夫です。ただ貴方達の雇い主に言っておいてください」

ニコッと効果音がつきそうな眩い笑みを浮かべたボロス。

「この炎天下の中で作業員を無理やり働かさないでくださいこれ以上働かせようとするなら僕らは貴方を訴えますもしくは僕が直々に貴方の枕元にたって鉄柱を落とします、と」

ニコリ。美しい笑みでボロスはノンブレス。とどめに彼の手からは握り締めたせいで血が溢れているというオプションつき。

「はっはぃいいい…!!」

よっぽど恐かったのか、土埃が見えるような気がする勢いで、彼は去って行った。

「…ありがと」

「何のことだ。帰るぞ」

ゆらゆらと、そこに存在する陽炎を睨みつけながら、彼は彼女の手を引いた。

***

その後。

ボロスが歩道橋から落ちる彼女を受け止め、突然現れた通り魔を叩きのめしたりしながら、二人は家についた。
また、家でも

「今日はボロスが好きなものずくしにするねー」

と笑って宣言した直後に火をかけっぱなしにしながら電話をするシオリをデコピンしたり、上の戸棚から落ちてきた包丁をさりげなく受け止めたりした。

全く今日はなんだったんだろうね、と首をかしげながら、シオリが寝たのは二十三時。
さあな、と軽く流したボロスが寝たのは二十三時二十分。
そしてその三十九分後。

ゆらり

突然シオリの枕元に陽炎が発生した。
室温二十五度で調整された部屋に、である。
その陽炎はしばらく彼女の辺りを彷徨うと、もう一度、ゆらり。
次に現れた時、陽炎の中には刃物が浮いていた。

そして、それが彼女の喉元に…

キィンッ

突き刺さろうとした瞬間。刃物は吹っ飛んだ。
一瞬ゆらぐのを止めた陽炎。
部屋にはもう一人の人物が登場していた。
その人物は、刃物を弾いたその勢いに乗せて、陽炎の中に腕を突っ込んだ。

「ぐはっ」

ゆらぎが解けた。
そこにいたのは一見普通の男性。

またの名を――怪人カゲロウデイズ。

「貴様か…今日一日シオリを殺そうとしたのは…」

「っ嘘だ!なんで、俺が見えて…」

「残念だがそういった人の目を操作する能力は俺には効かぬ。さて…」

もう一人の人物、ボロスは本来の姿に戻った。
寝ているシオリが夢の中で死にそうな体験をしたぐらいの殺気が放たれる。
怪人は自身の冷や汗のせいで陽炎になることができないのを知った。そして。

「お前を何回殺したら俺の気は済むか…試してみようか」

俺、もう朝日を見ることができないんだなあ、と怪人が察した時、時刻は八月十六日の零時をさしていた。
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