ワンパンマン
□もしかしたらの未来
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昔、とある星を荒らしにいったことがある。
その星にはあらゆる宝石が存在し、他の星ともあまり接点がなかった。盗賊が襲うにはもってこいの星だったのだ。
適当に部下へ命令を下し、自分は後から荒れきった街を歩いた。
ガタンッと物を倒すと音と、慌てた気配。
壊された家に入ると、怯えきったこの星の住民が、ひしっと抱き合っていた。
「親子か」
「っお願いです!なんでもするから、この子は殺さないで!」
ふるふると震え、それでいて睨みつける。どんな生物とて、母にとって子供はどの宝石よりも貴い財産なのだ。
「…しかたない」
「!」
希望に染まった親子を、呼吸ともつかない音で笑って――
ザシュゥッ!!
俺は子供の頭を、もぎ取った。
「ぁっ、あ…ああああああああああ」
絶望に戦慄く母親を背に、俺はまた街を歩いた。
財産、ならば、盗賊は奪ってナンボだろう。
俺は当然のように、そう思っていた。
その、報いなのだろうか。これは。
怪人が現れて、人々が逃げようとして、シオリと繋いでいた手が離れて、彼女が転んで、怪人が笑って、そして。
ザシュゥッと、聞き慣れていたはずの音が、響いたのだ。
「ぁっ、ぅあ…」
背中を一撃。
背中は、死にやすい。いや、人間は、どこを切っても死にやすい。
感情が追いつかない状態のまま、身体は冷静に、怪人を殺していた。
「シオリ」
かけよると、ひゅー ひゅーとかすれた音を出しながら、彼女は必死に俺に手をのばした。それを握る。
「、っめんね…も、だめ…みたっ…」
「死ぬのか」
「…ご…ん」
「…そうか」
何をするべきなのか、俺には本当にわからなかった。
後悔のないように、とは誰がいったのだろう。後悔は、文字通り後から悔むのだ。今、何をしたところで俺はきっと後悔する。
「…っき、ぼろっ…すが、す、き」
「…俺も好きだ。お前がいたから、俺は今生きている」
「ぁり、がと…で、も…っとおって…しん、じゃだめ、だ、から」
「わかった。できるだけ長く生きよう」
「ぅん…うん…」
こんな時だというのに、彼女は綺麗な涙を流した。
ぽろぽろと、宝石みたいだ。
「っとは、ね?ぼ、ろすと、もっ…と、いき…たい」
「俺もだ」
いつのまにか、俺は本来の姿に戻っていたようで、もし人がいたら、あの男に通報されて殺されてしまうな、と馬鹿なことを考えた。
それもいいかもしれなかったが、彼女に死ぬなと言われたばかりだったから、これは一種の幸いなのだろう。
ただ、彼女を抱きしめた。優しく、優しく。
シオリが、ふと力を抜いた。
「好きよ、ボロス」
そしてそのまま、彼女が俺を抱き返すことはなかった。
「――俺もだ、シオリ」
今度は遠慮なく力いっぱい抱きしめた。
ずっとこうしたかった。でもできなかった。
「シオリ」
安らかに眠れ。