ワンパンマン

□サイタマさんと楽しい耳かき
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最近趣味で、ちょっとした小物を装飾するようになった。
装飾と言ってもビーズとかはあまり使わない。絵を着け足したり、造花をつけたりするのだ。
ただいくら楽しくても自分一人で見てはつまらない、ということで完成品を友人のサイタマのところに見せにきている。

今回は、耳掻き。

「うわ、お前これ細かいな!」

登場させた瞬間、サイタマの目は面白いくらいに大きくなる。

「ふははーもっと褒め称えてもいいんだぞ!」

「まあここ糊はみだしてるけど」

「ぐっ」

「ジェノスにやらせた方がもっと綺麗そうだけど」

「ぐぐぐっ」

くそう…毎度毎度ジェノス君を引き合いに出しやがって…。
グルーガン難しいんだぞ、やったこともないくせに!

と、横で洗濯物を畳んでいたジェノス君が真面目な顔で返答する。

「先生。いくら俺でも初回でそこまで作ることはできません」

「だよね!」

「シオリ、初回は、って言われてるぞ」

そう言いながらも、サイタマは面白そうに耳かきを見てくれるから、その…好きなのだけれども。
ぶすっ、という可愛くない表情は中々消えない。

ふと思いついたようにサイタマがいった。

「なあシオリ、耳かきしてくんね?」

「?え、使ってるところ見せろって?」

「いや、俺の」

「え、それは自分の耳くそを見ろっていう新手の露出ですか!?」

「ちっげえよ!」

不思議なこと言うなあ、サイタマは。

「まあ、いいけど」

正座をしてぽんぽん、と膝を叩くと、頭をのせるサイタマ。

「じゃあ、いくよ?」

「おー」

人の耳いじるのって初めてだけど…これくらいで大丈夫かな。

「どう?痛い?」

「いや、ちょうどいい」

「そ」

そのまま進めていくと案外簡単に終わってしまった。

「じゃあ反対」

今度はサイタマの顔が私のお腹の方を向く形になった。
さっきの要領で手を進めていっていると…。

「なあシオリ」

「んー?」

「流石に運動した方がよくねえか」

彼の視線の先にあるのは、無論、腹。

「ぎゃあっ!?」

動揺した瞬間。手元は狂った。
そう、狂った。

ぐさ

「あ」

「い”っ…!!」

サイタマの耳を思いっきりぶっさしました、てへぺろ。

「あー…ごめん」

「っお、まえな…!」

「いや、私は知れてよかったよ。サイタマにも痛覚はあるんだね!あと自業自得だと思うよ!」

「お前俺のことなんだと思ってんだよ…」

だけど耳ぶっさされたのにもう回復してるサイタマは、やっぱり常人じゃないと思う。

「あーくそ。交代だ、交代!」

「え、サイタマがやるの?」

思わずサッと耳を隠してしまう。いやだって、このタイミングだと、ねえ…?

「刺さねえよ。刺したら…今日のデザートの杏仁お前にやる」

「…」

それにしたってタイミングおかしくないか…。
だけどまあ、結果的に刺しちゃった私だし…。

「うう、不安だ…」

「大丈夫だって」

さらり、と私の髪の毛をどける。
あんまり触ってほしくないな…恥ずかしい。

「じゃあいくぞー」

どこかウキウキとした様子のサイタマ。
反するようにそっと入ってくる耳かき。

「…やべー、加減わかんねえ」

「うん、今すぐ退いて!」

「いや、大丈夫大丈夫。痛かったら言え。うん」

ひぃ恐い。

だけど、うん。サイタマの手つきはあくまでも優しかった。

「…痛くないか?」

「今の、ところっは…」

そう。優しかった。
耳かきでいうところの『優しい』っていうのはつまり『ゆっくり』というわけで。

「っ…」

びくりっと跳ねそうな身体を押さえつける。
吐息が熱い。熱い。

なんだか、変な気分なのだ。

ぞわぞわっと悪寒みたいなものが背筋を走り抜ける。

「ぁ、まっ、まだ…?」

「んー…もうちょっと」

サイタマの声は普通である。
サイタマからしたら、友人に耳かきをしてあげているだけなのだから、当然だ。

そうだ、これは、耳かき耳かき。
落ちつけ私、落ちつけ。

でも神様っていないんだよね。

次の瞬間、サイタマが若干動きをはやめた。

「ひっ…!」

ああもうやだ早く終われ終われ終われ!
なんでこんな変な声でるかな、ほんと!

「サイ、たまっ…もう、いいからぁっ」

「まだだ」

「ほんとっ、も、いいのっ…!」

「まだだ」

ここらで若干異常性を感じてきた。

そもそも、である。

友人同士で、耳かきってしあうの?

だけどまあ、この段階で疑問をもっても後の祭りなのである。
時折角度によって触れる彼の手にすら、変な声が漏れそうになる。
はぁ、と熱い息が彼の膝にかかっていること、彼は気付いているんだろうか。

その時一気に引き抜かれた。

「ひ…」

もう身体は押さえつけられなくて、ビク、と震えている。
熱いのと、妙な喪失感でどうにかなりそうだ。

「反対もするか?」

「しないよ、ばか!」

みっともなく呼吸を乱す私を見下ろし、一瞬息を詰めたサイタマはきょどきょどと視線を彷徨わせながら、ほんの少し上ずった声で「やっべ…」と呟いていた。






「…えっと、夕食作りますね…?」




「「!!?」」

存在を忘れられていたサイボークは思い出す。
数日前、先生が使っていたパソコンの履歴を見た時「耳かき」「耳かき やばい」というワードがあったということを。

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