ワンパンマン
□寒くて熱い
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「シオリ、起きろ」
「っなにー?まだ七時前でしょうが…」
突然ゆすぶられ起こされた。犯人はもちろん、ボロスである。
「空から変なものが降ってきたんだが」
「何が降ってきたの?ハンカチ?下着?餃子?」
「いいや」
後から考えると死ぬほど恥ずかしいことを口走った私を気にも留めず、ボロスは真顔で言った。
「白くてフワフワしたものがだ」
***
「ほおーまた見事に積もったねえ」
窓から見える景色に思わずうなる。
一夜を明けて、街は銀世界へと変わっていた。今年はもう降らないと思っていた、雪だ。
「これが雪なのか」
「あー、そっか。見たことなかったのか」
「ああ。不思議なものだな。成分は雨と変わらないはずなのに、地球人が浮かれている」
「突っ込むところはそこか」
その間もフワフワと柔らかく冷たい雪は降り積もる。
「触ってみる?」
「そうだな」
ガラリ、と窓を開けると途端にぶるりと背中が震えた。
寒いなあ…私インドア派だから雪好きじゃないんだけど。
ちらり、と人間の姿になったボロスを見ればそんな気も失せる。
彼はどこか眩しそうに、この星を見るのだ。
「…冷たいな。そのくせすぐに水に戻ってしまう。成分はあまり綺麗ではない、か。シオリ、呑まない方がいい」
「どうしてボロスはこういう時ロマンチックな言葉言わないのかな!?ていうか私、雪を食べたりしませんからね!?」
「ロマンチックな言葉を言われたかったのか」
「いや、違うし!そうじゃないし!」
ああもう前言撤回。何が眩しそうだ。
私を見る目はいつだって笑っている。
「もういい!朝食作ってくるかっ…!?」
「まだもう少し見たい」
「痛い痛い痛い痛いって!」
みしり、と掴まれた手首が悲鳴をあげた。
人間になっても馬鹿力って何なの!?そこちゃんと対応してよ!
「だが寒いな…」
「窓越しに見てればいいじゃん…」
「嫌だ」
ふと彼は私を見た。
次の瞬間、ボロスはニタァと笑みを浮かべる。
警報、警報。
「は、離して!」
「寒いな」
「おいボロスまさか貴様そのイケメン顔のまま同人誌のようなセリフいうんじゃないだろうな、おい」
「汚い言葉遣いだ」
自分の言語は大事にしろ、と言いながら、
パクリと彼は私の唇を食べた。
「んむっ…!」
馬鹿ボロス!
熱くなってしまった顔のまま睨みつければ、ボロスはまた笑うような目で見返してくる。
(っこの…!)
ガッ!と思いっきり唇をかんで再び睨みつけた。
ただでは転びたくない。そんなの絶対嫌だ。
でもボロスは、ますます笑うような、嬉しそうな目をして――
噛んで押さえつけているはずの口から、ぬるりと舌を侵入させてきた。
「っ!」
馬鹿馬鹿馬鹿ボロス!死ね!くたばれ!
舌をかみちぎってやろうと私が動く前に舌をからめとられる。
上あごをなめられてぞわっと鳥肌がたった。それが嫌悪からでも寒さからでもない自分が最悪だった。
「ん、ふ…っ」
それでも懲りず、私はボロスを睨みつけた。
ボロスはまるで、やれやれといった感じに瞬きをして、そっと、離す。
そしてついでに、といった様子でいつのまにか出てきた涙をぺろりと舐められて、
「あったかくなった。礼を言う」
「っっ死ね!!」
雪はいつのまにか止んでいた。