ワンパンマン

□背徳的情緒の夜
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所謂忘年会だった。
いくら女性が多い会社とて、こういったときには思いっきりハメを外す。
それをチャンスととる勇敢な男性社員もいる。

そして彼らいわく、俺はとても邪魔らしい。
『そういう気がねえなら隅で酒でも呑んでろ!』
というご指導のもと、隅っこでグビグビと良い酒を呑ませてもらっている。
あ、この酒うまい。メモしとこ。

『では皆さんお待ちかね、くじ引き大会だああああああ!』

おおおお、と一気に盛り上がる会場。
これは事前に皆からもらったお金で色々な景品を買っておき、それをくじ引きで決めようというものだ。

『今年の一等賞は…特別有休&高級旅館付きの京都旅行だ!』

京都か…いい茶葉が手に入るからボロスもきっと喜ぶだろう。
…うん、茶葉だけじゃなくて俺自身も楽しみますよ、もし行けたら。
ほら、俺、意外と仏像好きだし…。

うだうだと言い訳を自分自身に重ねていく。
だって、なあ。まるでボロスが第一みたいじゃねーか。

という考えですら、そろそろ照れ隠しめいてるのはもう病気なんじゃないだろうか。

誤魔化すように他の奴に耳をかたむけると…

「なんだー、去年みたいにグアムとかじゃないのかー」
「でも特別有休には惹かれるー」
「彼氏と有休重なるようにすれば…」
「この権を使って、女性をオトス」
「その気持ち悪い考えはよせよ」

京都自体に惹かれる奴はいないのか。

なんだか不毛だ。これ終わったら帰ろう。もう夜中の零時だ。ボロスに怒られる。

『じゃあ順番にどうぞ』

一番奥に座っていたのがあって俺はどうやら最後。
まあこのくじ引きって例年ハズレも豪華だし、どうでもいっかーと思いながら列に並ぶ。
なかなか当たる奴はいないのか皆苦笑しながら自分の景品をもらっている。

俺は箱に残った最後のくじをとった。
ピラリとめくると…。

『一等賞』

「…はあ?」

「あ、シオリが一等取りやがった!」
「くそ、このラッキーボーイめ!」
「ああ!羨ましい!私も連れてってよ!」
「シオリさんおめでとうございます!」
「ってことでお前、最後まで帰さないからな…覚悟しろ」

悪い、ボロス。俺帰れそうにねえわ。

***

「…ん」

外の冷気を感じて目を開けた。どうやら彼が戻ってきたらしい。
枕元の時計を見ると四時。よくもまあ、ここまで遅くなれたものだ。

が、怒ろうにも、元は彼のものであったベットはとても温い。
思わずまたまどろみかけた時、ガチャリ、と部屋のドアが開いた。
仰向けに寝ていたが、まぶしくて壁を見るような形に変わった。

「…おかえ」

り、と呟くよりシオリがベットに潜りこむ方が早かった。
つん、と漂う酒の香り。背中から冷気が伝わってくる。

「はー、やっぱあったけ…」

「…コートのまま入るな」

「いいじゃん、これくらい」

呑み過ぎだ。
もしこれを素面の彼にしたら怒鳴られること必然だろう。

「なあ、ボロスー」

まるで甘えるようなかすれた声。

「来月さ、京都行こう、京都。二人で回って、いろんなもの見よ。お前の好きな、茶葉いっぱい買おう」

思わず顔の向きを変え、彼の方を見た。
シオリは半分顔を枕に押し付けて、ニヤリ。

「やっとこっち見た」

これは一体何の試練なのか。
まぎらわそうと完全に身体を彼の方に向ける。

「…呑み過ぎだ」

「うっせーな。たまにはいいだろ」

「遅いから心配しただろ」

「うん、ごめん」

「…さっきの話の続きだが、もし行くなら三十三間堂とやらに行きたい」

「いいな。あそこの千手観音、俺も見たい。あ、後伏見稲荷とか、清水寺とか」

「枯山水」

「天満宮の近くにうまい梅のそばやにも」

くっくっくっと嬉しそうに嬉しそうにシオリが笑う。
何がまぎらわすだ。逆効果だった。

男にしては細い腰を抱き寄せる。

「んー?」

「もう寝ろ。また明日話そう」

「んー、でもなー、もったいない気がする」

今おれすっげえ幸せな気分なのに。

「…そうか」

「うん、でも、こうやってボロスにだきしめられてると、落ち着く…」

次の瞬間には寝息をたてはじめる彼に、一言「おやすみ」と呟いて、自身も瞼を閉じた。


Title by アセンソール

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