ワンパンマン
□もしボロスに言語変換能力がなかったら。
1ページ/1ページ
目を覚ますと知らないベットに寝かされていて、どうしたものか、すっかり言語変換能力を失っていた。
「☆§●…」
相手も困ってしまったようでポリポリと頭を掻いている。
瞬間的に殺すことも考えたが、俺は、なぜか「生きたい」と思っていた。いくつか俺に言葉を投げかけては困惑の色を深める彼女がサイタマのように強いとは思えなかったのも、生かした理由の一つだ。
ぼんやりしているとぐいっ、と腕をひかれ、彼女の左胸に押し付けられた。
「シオリ」
とくん、とくんと心音の音がする。
「シオリ」
もう一度今度は、強く。
「…シオリ」
それが、俺の覚えた最初の言葉だ。
***
そこからは根気のいる作業が始まった。
何しろ言葉とは有限だが無限だ。
「トリニク」
「いや、これは豚肉」
「…ギュウニク」
「いや、それは鶏肉…ってこら、燃やそうとしない!」
後から振り返るとなぜそのようなマニアックなものから覚えようとしたのかわからないくらい、彼女は細かいことから教えていった。
「これはガス」
「炎ではないのか?」
「正確にはガスから出る炎」
「原理を教えろ」
「私に理科を聞かないでください」
その時間は、不覚にも楽しいものだった。
彼女は彼女で笑っていた。
だが。
「シオリ」
「なにー」
「愛している」
この言葉を言うと、いつも彼女は悲しそうな顔をする。そして毎回同じことを繰り返す。
「ボロスはまだ言葉を知らなすぎるだけだよ」
と。
***
「愛している」
その言葉を聞くと無意識に困った顔になってしまう。
彼は、その言葉の意味を理解していないのだ。
「ボロスはまだ言葉を知らなすぎるだけだよ」
そういうと、彼はどこか不服そうに眉をひそめて、去っていく。
私は少しひどいのかもしれない。
だって私は、ボロスが好きだ。恋愛的な意味で。
まあ何故とか言われると曖昧になってしまうけど…。
だからその「愛してる」が、たとえどんな意味を持っていようが、私を喜ばせているのだ。
それで十分だった…はず、なのに。
「シオリ」
「なにっってうわあああ!?」
私からすればドンッと、彼からすればトンッと押し倒された。
「っ何、する」
「なあシオリ。貴様の言うとおり、俺は言葉を知らなすぎる。だから態度で示すことにした」
「何言って」
「シオリ」
こうしたくなるのはどういう感情からなのか、教えてくれないか。
嫌な予感がした。とてつもなく嫌な予感。
次の瞬間、彼は私の首元をレロォ…となめた。
なめた、なめた、なめた!!!
「ひっ」
「これだけじゃない。シオリの色々なところに触れてみたい」
「あっ、ちょ、また」
今度は耳、だった。
「っ」
「…ほう」
ぴちゃ、と水音が聞こえるのが本当に恥ずかしいし、こそばゆい。
反射的にボロスの服を掴んでしまう。まてまて私、こりゃいかん。
ああやっぱり、ほら、ボロスが爛々と目をひからせている。
「まあつまり、率直に言うと、犯りたい」
「っくたばれボロス!!!」
勘弁してください、と。
私はこの日から毎日思うことになるとは、一切考えていなかった…。