ワンパンマン
□いたい
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「…痛い」
思わず漏れた言葉に、ゾンビさんは自分の食事の手を止めた。
「どうした?虫歯か」
「歯磨きを欠かしたことはありません。口内炎ですよ口内炎」
はあ、とため息をついたが、彼は考えこむような表情をしたいた。
「…もしかして、知らないんですか?」
「…口が崩壊する病気だろ」
「そんな恐ろしい病気もってません。できものですよ。とにかく沁みるんです。正直もう食べたくないレベルに痛みます」
「そりゃ拷問だな」
どんな類の病にもかかったことのない彼はどこか吹く風だ。
目の前の食事を見る。焼いた魚にリンゴのソースがかかったメインディッシュはいい。塩分が少ないから沁みることもないので、当たらないようにすればいいのだ。
だが問題は…
「サラダ食わねえの?」
「…」
そう、トマトがたっぷりのったサラダだった。
「…とてもよく沁みるんですよ」
「残すのか」
ぐっ、とつまる。
「残すのか」
再度かけられた挑発に、反射的に叫んでいた。
「私が食事を残すなんて貴方が死んだってありません!」
「…へえ?」
ニヤリと、彼の口元がつりあがった。
「…」
…ええ、食べますとも。
***
だが思った以上にきつかった。通常よりかなり重症なのだ。
自分の舌先で触れてみるとピリッと痛み、そしてくぼみを感じた。
「…お医者様に行った方がいいようですね」
「まだあと半分残ってる」
「うるさいですねホッチキスで止めますよ」
あれからもう20分は経っただろうか。いつもよりはるかに遅いスピードに彼の方が飽きてきたらしい。
かぷりと食べるたびにビクリッとわずかに身体が揺れる。
ジンジン、と炎症も熱をもつ。
…地獄だった。
「…食ってやろうか」
「っえ」
「食ってやろうか。つうか飽きた。お前遅すぎ」
「…」
うるさい、という罵倒は出せない。彼はとたんにそっぽを向くだろう。
「…どうぞ」
ゾンビさんはそっと差し出したお皿を、ひっつかむようにして受け取った。
そこから彼は1分もかからず食べ終える。早い。
いや、私が遅かったのか…。
「なあ、一個願い事言っていいか?」
「…別にかまいませんが」
ちょっとしたお礼も込めて、ひねくれた言い方ながら素直に言ってみる。
すると、またニヤリ。
ぞっと悪寒が走った。
「ん」
ちょいちょい、と「来い」の手つき。
ため息をついて反対側に歩いて回ると――
ぐいっと。
それはもう強い力でひっぱられた。
「ちょっと何するんですっんん”!?」
ガチッ!と、歯と歯が音を立ててぶつかりあう音。乱暴な、というかそれ以上に痛い。
痛い、とても痛い。ちょうど右側の唇にできていた口内炎。キスはもはや暴挙だ。
文句代わりにドンドンと彼の厚い胸元を叩いても、彼にはノーダメージ。
しかも拷問にはレベルアップがあったのだ。
ぬるり
彼の熱い熱い舌が、すべりこんできた。
「、っん、やめ…!」
彼は左頬からぐるり、と舌を一周させ、そして終末にあるのは。
「っ!!!!!」
声にならない痛みが全身を貫く。びりりと、それはもう電流のように。
それはさながら快感のようだった。
そして拷問は終了した。
「んっ…」
つー…っと唾が口の端から垂れていく。
痛みか。酸欠か。生理的な涙もおちていく。
ぼやけた視界でチロリ。赤い舌が見え隠れした。
「はっ…えろい顔」
「…死んでください」
満足げな彼に、主導権が奪われつつあるのを、ひしひしと感じていた。
―――
申し訳ありませんでした。