ワンパンマン

□甘い欠片
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ぽろぽろと手から何かが落ちる。落ちる。落ちた。割れた。
割れても割れても、「何か」は溢れてとまらない。パリンと音が鳴るたび、泣きたい衝動に駆られるのに、手は耳をふさがない。

「シオリ」

いつのまにか目の前にサイタマさんが立っていた。

「シオリ」

一体どうしたのだろう。彼は繰り返し私の名前を呼ぶと、割れた何かの欠片を拾った。

「これ、もらっていいか」

「…どうぞ」

やっと出たのはかすれた声。それでも彼は嬉しそうに笑って、さんきゅなと言った。言ってくれた。

ああ。

いよいよ何かは止まらずに、我先にと彼の下へ飛んでいく。

ああ、待って。

彼が埋もれてしまう。

だけど当の本人は、あろうことかそれを食べた。

ズクンッ

どこか甘い痛みが身体全体を襲う。

「食べないで、さいたまさん」

「うまいぞ?」

「食べるものじゃ、ありません」

「食ってみろって」

「いいえ、知ってます。それ、はまずいものです」

「まずくないけどなあ…」

いつの間にか、別の輝きを放つ何かが私の方へとやってきた。
なんでだろう。甘い香り。

カプリ

一口かじると、なんておいしいんだろう。あっというまに一つ食べた。

「どうだ?」

「おいしいです」

「良かったな。だからお前のこと食べていい?」

「はい、もちろんです」

思わず笑ったところで、世界は暗転し、視界いっぱいに部屋の明るさが入った。

「おー、起きたか」

「サイタマ、さん…」

「あんまりにも眠っているから、死んじまったかと思った」

「すみません。なんか甘くておいしいもの食べてました」

「まじか」

「でもサイタマさんだって食べてました。むしゃむしゃって」

「ふうん」

よいしょと重たい身体を起こす。寝起きは辛い。

「シオリ。こっちむけ」

「はい?」

かぷり

まるで獣が食すように、サイタマさんの唇が私のそれをむさぼる。

「食べていいんだよな」

「はい、もちろんです」

再び世界は暗転した。


Title by 移転先

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