ワンパンマン

□猫化ボロスと甘
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会社を出るとでかい猫の怪人がヒーローと戦っていた。

「あ、あれゾンビマンさんじゃん」

「おー、頑張ってくださいねー!」

何回か仕事で接触したことのある彼は社員全員の人気者だったりする。私も嫌いではない。
何人かはこのまま彼の戦いっぷりを見ていくようだったが、私は帰ることにした。今日はお隣さんから生きのいいサンマを手にいれたので焼いていただくつもりである。ボロスには鱗をはがしてもらう予定だ。ボロスは私より20倍は器用なのでそれくらい簡単だろうと勝手にきめつけてある。

「お疲れ様」

「蒼霧さんお疲れ様です!」

同僚たちの声に背を向けた、その時であった。

「っらあ!」

ゾンビマンさんが斧を怪人に突き刺した。おお、と思っていると彼はそのまま切り裂いていく。

そして

ブワッ

「っ!?」

「げほっ、げほっ!」

「な、何これ…煙?」

何か黄色い煙が広がり、私を含めた周囲の人も一斉にせき込んだ。

「すまねえ!大丈夫か、あんたたち!」

「はい、大丈夫です…多分」

ゾンビマンさんはほっとしたように表情を和らげると、どこかに連絡していた。多分本部だろう。死体処理班がいるときいたことがある。

「じゃあ今度こそ帰ろう」

「さよならー」

その後は無事に家について、サンマはとてもおいしかった。
ボロスは何も言わないけど…多分気に入ったんだろう。だって食事中、一言も喋らずに骨一本一本まで丁寧に食べていたし。
…うん。骨は食べるべきものじゃないって話すの忘れてたんだよね。後で怒られた。

残りのサンマは明日刺身にしようと決めてから、そのままいつものように寝たのだ。

朝。

「ふぁああ…やっぱり休日の朝はいいね…」

「何がいいものか」

開口一番それか、と若干むっとしたのだが、こちらに背をむけて座るボロスの様子がなんだかいつもと違った。
こう…なんか…怒ってる…?

「…ボロス?」

「お前は昨日何を連れてきた」

「え!?」

「おまけに自分自身に被害はないのか。なんとも都合のよい代物だな」

「いや、だから、どうし…」

その先の言葉はつむげなかった。

「…え?」

ボロスのふさふさの髪に埋もれるように二つ、猫の耳が生えていた。

***

これがドッキリだったら早く出てきてほしいものである。
想像してみろ。長身の、結構肩が大きめの一つ目の成人男性が猫耳生やしてる姿を。うん、全然問題ないと感じる私の脳細胞はどうなっているんだろう。

「似合ってるよ?」

「通帳のカードを燃やしていいか?」

「待て待て待てなんでそう現実的なもの燃やすかな」

やりかねないとこが怖い。

「何か記憶にないか?」

「うーん…あったけ…」

ネコミミ…ネコ…猫?

「あ」

私は昨日のゾンビマンさん発見から黄色い靄をあびたところまでを事細やかに話した。
ため息と共に「他の周りのやつらに確認してみろ」と言われ、あわてて電話してみると何もない、とのこと。謎は深まるばかりである。

「その男に危機管理能力はないのか」

「いや…ゾンビマンさん何されても死なないし…」

「それは生きているのか?」

「…ゾンビマンって名前だしねえ…」

まあそれはおいておこう。ともかく怪人のせいなのである。

「問題なのはどうして私じゃなくてボロスがネコミミやら尻尾やら生やしちゃったかだよね」

「おそらく貴様の服についていたのを俺が吸ったのだろう。問題はそこからだ。何か違いはあるか」

「…性別?」

「ゾンビマンとやらも感染していなかったのだろう?」

「うーん…地球人かそうじゃないか」

「可能性はあるな」

「後は…」

ふと昨日の夕飯のことを思い出した。

「…魚の骨を食べたか食べてないか?」

「ふざけてるのか」

「可能性可能性」

その時一つの情報がアオイちゃんより送られてきた。

『なんか、体内のカルシウムの量が一定より多くなると発病するらしいですよ!まさか蒼霧さん…牛乳一気飲みしました?』

「…」

「…ね、可能性可能性っていでででででちょ、頭ぐりぐりするのやめて!痛い痛い!折れる!頭蓋骨折れる!」

10分頭痛で動けなかった。

***

「…」

ゆーらゆら

「…」

ゆらんゆらん

「…えい」

むぎゅ

「…死ね」

「え、ちょ、ボロスさん!?怖いよ!?」

だって目の前で尻尾ゆらゆらされたら気になるじゃん!

「えっと…その…ごめんなさい…?」

「…急所をゆらゆらさせていた俺にも非はある。だが…」

はあ、と今日で何度めかもわからぬため息がこぼれた。

「お前は『そういう女』ではないから…勘弁してほしい」

珍しく目を見て話さないボロスに首をかしげる。ていうか…『そういう女』って?

***

早いもので夕食の時間になった。
ちなみに朝食の時、ボロスが普段なら飲める味噌汁でやけどしたため、全部冷えてる系。

「…日本茶は熱い方がうまい」

「そうだよねえ…まあお伴はサンマなので勘弁してください」

ピンッとたったネコミミに、わかりやすくなったな、と猫化で唯一の長所を見つけた。

***

全部終わり、後は寝るだけというのだが。

「…ボロス?」

ソファの横に座るボロスが私の袖を離してくれない。

「…頼みがある」

「ん?何?」

「笑うなよ」

「頑張る」

「…頭を」

「?」

「頭を、撫でてほしい」

「…」

え、何これ笑えない。すごく笑えない。明日は雷で決定だろう。

「ど、どのような感じで」

「…お前が、普段動物を撫でているようなものでいい」

なるほど。まあ確かに頭撫でられるのは人間でも気持ちいいよねー。

「じゃあ失礼しまーす…」

おそるおそる。まずは表面だけ。
おお、ふわふわである。
そういえばいつかワシャワシャしたいなあと思ったことがあるのを思い出した。

よし、これはご褒美だ。きっと。

「おりゃっ」

ワシャワシャッ!とかき回してみるとおお。素晴らしい。すごく気持ちがいい。私が!

「どうです、ボロスさん」

「…悪くない」

その返事に吹き出しそうになった。
うん、もともと性格が猫っぽかったね、ボロスは。

「もういい。2分も経ってるぞ」

「えーもうちょっと」

「…明日もさせてやる」

「わーい」

手をどけると、ボロスは若干目を細めていた。
それがいつもの「嬉しい」という意味なのか、それとも動物特有の「気持いい」の合図なのか…判別はつかなかった。


次の日、無事に戻った彼を喜ぶ間もなく、自分が猫化しているのに大絶叫してボロスにはたかれるのはまた別のお話。

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