どうぶつ日和

□こんな寒い季節と言えど
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さて、更に歩くこと10分。目的の公園に着いたものの中には入ろうとしない玲ちゃん。いつもは芝生の真ん中に立つ噴水の近くにあるベンチに座るんだけど……。

「どしたの? 入らないの?」
「ん、今日は“遠回り”って言ったでしょ。それに中だとちょっと見えにくいんだよねー、多分」

カバンからたい焼きを取り出し、その半分を私にくれる玲ちゃん。すっかり陽も落ちて辺りは夜に包まれている。陰で見えにくいけど玲ちゃんちょっとニコニコしてる?

「普段あんまり見ないからなー……アキ、上見てみて」
「上って…………わぁぁ……!」

玲ちゃんの言葉に従い上を見上げると、いつの間にか真っ赤に染まっていた紅葉達が空高く広がっていた。
そしてその隙間を縫うように、たくさんの星たちが暗い空に散りばめられキラキラと輝いている。

「もう紅葉が真っ赤になる季節だったんだね……え、ねぇいっぱい星見えるよ玲ちゃん!」
「ここら辺はあんまり建物も無いから、結構見やすいんだよ」
「わー……全然気付かなかった……」
「アキは少し下を向いて歩く癖があるから、多分気付いてないだろうなーって思って。たまには季節感を味わうのもいいかなと」

喜んでもらえて何より、とはにかむ玲ちゃんに思わず抱き着く。感謝の気持ちが届くようにぎゅーっと。きっと、どこを探したって、玲ちゃんほど私を見てくれる人なんて見つからない。

「……いつもありがとう」

ぽそりと、それでも聞こえるように、呟く。玲ちゃんは無言で私の頭を撫で、抱き返してくれた。

「さてさて、せっかくなんで公園の周りをグルッと一周してみません? 星も紅葉も、いろんな見え方すると思うよ」
「あー、それで“遠回り”なのね。それと甘いもの!」

フフフと笑いあって、もう一度手を繋ぐ。コートのポケットには入れない。人もほとんどいないし、夜だし、今だけは、いい……よね。
半身に玲ちゃんの体温を感じながら、空を見上げつつ歩を進める。あたたかい街灯の光が淡く紅葉を照らす。正座なんてオリオン座くらいしか分からないけれど、紺色の絨毯に広がる白銀と朱に、ただただ目を奪われるしかなかった。会話もほとんどなく、どちらともなく「きれいだね」と小さくこぼすだけ。それでも、やっぱり私はどうしようもなく幸せで。その幸せを大好きな人の隣で共有できることにまた幸せを感じているのです。
そんな時間はあっという間に過ぎるもので、気が付けば公園の入り口に戻ってきてしまっていた。

「今日はありがとう」
「こちらこそ」
「今度は私がエスコートする」
「期待してる」
「……すっかり冬だね」
「うん」
「玲ちゃん、あのね」
「……うん」
「……今もあったかいんだけど、その」
「…………うん」
「……もっと、いっぱい、あたためてほしい……です……」

何とか声を絞り出す。玲ちゃんはどういう意味か理解してくれたらしく、微笑みながら顔を寄せてきた。優しい笑顔の中で、瞳だけが小さく激しい色を燃やしている。

「泊まってく……よね。アキママに連絡は?」
「後でラインしとく」
「ん」

寒さで赤くなった鼻先で、同じく赤くなってるであろう私の鼻を撫でる玲ちゃん。顔に当たる息がくすぐったくて、すべすべの肌が気持ち良くて、フフッと笑いをこぼすと、一緒に笑った玲ちゃんと目が合って、そっと触れるだけのキスをした。

燃えて溶けてしまいそうになる熱い時間は、もう少し後。
今は、心と体を包んでいるこの心地よいぬくもりを、ゆっくり堪能するの。
 
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