どうぶつ日和

□なれそめ
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入学式の日。
まだ体に馴染まないブレザーの制服に身を包み、お祝いの赤い花飾りを胸に付け校舎へ向かった。

自分のクラスを確認し、指定された席に座って待っていると、前の席にも生徒が着席した。

(あー……何だっけ、名前。)

響きが似てる、と何となく気になった名前。
……それ以上にどこか惹かれている自分がいた。

(し……し……)

頭を抱えて必死に思い出そうとしていると、不意に肩を叩かれた。

「あの……」
「へっ!? あ、えっと……」

顔をあげれば、真ん丸いオレンジ色の瞳がこちらを覗き込んでいた。切り揃えた茶髪のボブヘアがよく似合っている。
えらく可愛らしい子だな、と思った。

「ねぇ、体調悪いの?大丈夫?」
「え? いや、そんなことないけど……何で?」
「だって、何か唸ってたし……」

頭を抱えて唸る様子が、体調が悪いように見えたらしい。これは恥ずかしい。

「いや、大丈夫。心配してくれてありがとう」
「ほんと? 式長いだろうし、無理しちゃダメだよ〜? あ、私、紫水 晶(あき)って言うんだ、よろしくね!」
「あ、そうだ紫水ちゃんだ!」
ガタッと立ち上がりそうになる。
オレンジ色の瞳が不思議そうにまた私を見つめていた。

「あー、えと、ごめん。 名前の響きが似てるなーって気になってたんだ。アタシは志倉 玲。……"しすい"と"しそう"って何か似てない?」

恥ずかしくなって徐々に声が小さくなる。
チラ、と前を見ると、笑いをこらえる紫水ちゃんがいた。

「え……と……紫水ちゃん?」
「ふふ、志倉さん、すっごいバツ悪そうな顔……あはは、かっわいー!!」
「ちょ、笑わないでよ!」
「ごめんごめん! でも覚えててくれたなんて嬉しいなぁ」

目を細めて微笑む彼女に、一瞬ドキリとした。あんなに嬉しそうな目をする人を見たことがなかったから。

「いや……実は、唸ってたのも名前を思い出そうとしてたためでありまして……」
「え、ほんと!? あはは、志倉さんってほんとに可愛いね! ……ねぇ、玲ちゃんって呼んでもいいかな?」
「可愛くない可愛くない。……って玲ちゃん!? 待って待って、そんなキャラじゃないって」
「えー……ダメ?」
またあの瞳に見つめられる。吸い込まれそうになって、ダメって言えなくなる、そんな不思議な瞳。

「……何か、ズルい」
「ふぇ?」
「……いいよ、そのかわりアタシもアキって呼ぶから」何故か照れてしまい、隠すようにぶっきらぼうに答えると、

「やったあ! これからよろしくね、玲ちゃん!」

と机越しに抱き着かれた。


今思えば、あの時から既に、私はアキに惚れていたのかもしれない。

 
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