押し花のしおり

□廃棄ホテルの女
1ページ/10ページ

僕、坂上修一は頭を悩ませていた。
先輩たちの後ろを歩きながら。
僕がこんなことに巻き込まれたのは、昨日風間さんが持ってきた話が原因だった。



「廃棄ホテルゥ?」

新堂さんが明らかに嫌そうに言う。

「そう!この近くに廃棄ホテルがあってね、誰もいない筈なのにたまに同じ部屋にだけ明かりがつくんだってさ!」

得意げに胸を叩く風間さん。
この前の学校の七不思議の話し合いで自分でも自分の話が他の皆より怖くないことを不満に思っていたらしい。

「……だから、どうしたんです?」

荒井さんが静かに風間さんを睨む。

「なんだい君!こんな面白い話があるんだ。行こうとは思わないのか!?」

「お前行こうとしてるのか……てか、お前らなんでここにいるんだよ。」

日野先輩が呆れたように言う。
日野先輩の言うことはもっともだ。
この狭い新聞部の部室には、新聞部の僕や日野先輩はまだしも、他の人達はここにいる理由がない。
他の人達とは、風間さん、新堂さん、荒井さん、細田さん、岩下さん、福沢さんだ。

「なんでって……」

きょとんとした顔で風間さんが答える。

「坂上君がいるからさ。」

「は、はい?」

僕が意外な答えに間抜けな声をだす。
他の人達は風間さんの答えに頷く。
僕が頭の上にいくつものハテナを浮かべていると、新堂さんが爽やかに笑った。
「いいやつだから、仲良くしときたいと思ってな。」

「は、はぁ……」

僕は気の抜けた声で返事をする。
まあ、新堂さんはいいとして……
他の人達が怖い……
いや、その中の一人はうざい。

「はあぁ……坂上も面倒な奴らに絡まれたなあ……」

「あ、あはは……」

日野先輩は哀れむように言った。
そこでまたそのうざい人が話を戻す。

「話を戻すがね、そのホテルに明日行ってみようではないか!」

「「「「「「却下。」」」」」」

僕以外の人達の声がそろう。

「なんでだね!?まったくノリが悪いってものだよ。」

風間さんが不満そうに言って、ばっと僕を見る。
やばいと僕が思った時にはもう遅く、風間さんが僕の肩を抱いて笑う。

「坂上君は行くよね?断ったらキャンセル料500円ね。」

「え、えぇ!?予約も何もしてませんけど!?」

「よし、行くんだね!明日の夜8時に学校にきたまえ!」

「ちょ、ちょっと風間さん!」

強引に決定した風間さんは新聞部から出ていった。
大げさにため息をつき机に突っ伏すと、とん、と肩を叩かれる。
顔を上げると日野先輩が僕を見下ろしていた。

「……坂上、俺も行こうか?」

「い、いいんですか?」

日野先輩が来てくれるなら風間さんと二人きりで行くより断然いい。
日野先輩は苦笑いで僕の頭に手を置く。

「いや、風間と二人きりなんて地獄だからな……」

「あ、ありがとうございますっ!」

僕が飛んで喜ぶように言うと、新堂さんがめんどくさそうに笑う。

「じゃ、俺も行くかな。」

「新堂さんも来てくれるんですか!」

正直な所このメンバーで比較的普通なのは日野先輩と新堂さん、福沢さんくらいなのだ。
日野先輩と新堂さんが一緒ならなんとか乗り切れる気がする。
そしてもう一人の比較的普通の人である福沢さんは肩をすくめて僕にウインクした。

「行きたい気持ちは山々なんだけどね、用事があっていけないのよ。」

ごめんね、と女の子らしく首を傾けてみせた。
その横で岩下さんが無表情で腕を組む。

「私も行かないわ。そんなバカバカしい話に付き合ってられるほど暇じゃないの。」

そう言ってそのさらさらの長い髪をはらう。
今度はその正面にいる細田さんが口を開いた。

「僕も友達としては行きたかったんだけどね……、廃棄って言葉を聞くと行きたくないんだよねぇ……」

困ったように笑う細田さん。
体重で床が抜けそうだからですか、と言いたかったがやめておく。
しかも、もし細田さんを連れていった暁にはトイレを調べることになるだろう。
正直な所、入りたくない。
その時、僕の隣で黙って本を読んでいた荒井さんが本を閉じた。

「僕は行きましょう。風間さんの話っていうのが気に入りませんが、そういう霊的な話は好きなので。」

風間さんの話っていうのが気に入らない、というところに全員が頷く。
これで行くメンバーは僕、風間さん、日野先輩、新堂さん、荒井さんになったわけだ。

「……メンバーがムサイな……」

日野先輩が呟く。
その瞬間、僕と新堂さんと荒井さんははっとしたように日野先輩を見る。
誰かを誘おうとしているのか?
ただでさえ変人の知り合いが多い日野先輩が?
こ、これは阻止しなくては……!

「で、でも、女子が行ったら危なそうですよね。何があるかわかりませんし……」

「そ、そうそう!もしかしたら霊とかじゃなく、ただのホームレスとか強盗とかかもしんねーし!」

「……そうだとしたら、男の僕らでも危ないですけどね。」

僕が苦し紛れに言った言葉に二人も続ける。
二人も僕と同じことを思っていたようだ。
幸い、日野先輩はそうだな、と納得してくれた。

今日はそれだけ話し合って解散となった。
……そういえば一緒に行ってくれるのは嬉しいけど、行かないっていう選択肢は選ばせてくれなかったな……
まあ、そんなわがままは言えないか……
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ