赤のしおり

□似てる。
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「ちょ、ちょっとおばさん!」
「あ、疲れた?走りっぱなしだったねー」
「違うから!体力の話じゃない!」

元気のないヒビヤ君を笑顔にしようと思いついたまま走り出して数分すぎた。
少し乱れた呼吸をしながらヒビヤ君を振り返る。
ヒビヤ君も少し肩をはずませていた。
「…そういうけど、息あがってるじゃない。」
「そ、そんなことないっ!」
顔を真っ赤にしてヒビヤ君が叫ぶ。
「じゃあ、なあに?」
私は首をかしげる。
「こんな走ってどこに行こうとしてるの。」
ヒビヤ君は睨むようにこちらを見上げた。
「特にあてはないよ。」
「……え」
私が言うとヒビヤ君は呆れたような声を出す。
「じゃあ、なんで僕をつれて走ってるのさ。」
「ヒビヤ君が元気なさそうだったから。」
私がそう言って微笑むとヒビヤ君は一瞬ポカンと私を見上げる。
その後、ヒビヤ君の頬が薄く色ずいた。
「…僕のことなんて放っておいてよ…」
俯くその瞳がかげる。
私はしゃがんでヒビヤ君と目をあわせた。
「放っておけないからこうやって連れ出したんだよ。」
私が言うとヒビヤ君の瞳が大きく見開かれる。
「ヒビヤ君には笑顔でいてほしいからねー!」
「…なんだよそれ。」
ヒビヤ君が少し笑いながらつぶやく。
「そうそう、その調子!」
私はヒビヤ君の頭をくしゃくしゃとかきまわした。
「や、やめてよおばさん!」
「おばさん呼びはやめてほしいなー…」
コロコロ変わるヒビヤ君の表情が面白くて私はついニヤニヤしてしまう。
「…まぁいいや。よし!ヒビヤ君行くよ!」
私はヒビヤ君の手をとって走り出す。
「お、おばさん!結局いつまで走るのっ?」
「ヒビヤ君が笑顔になるまで走るよー!」
「もういいって!僕、笑顔だからっ!」
ヒビヤ君はそう言いながらも、手をふりほどこうとはしなかった。


どうしても放っておけない。
私のお兄ちゃんにとても似ている気がするから。
もちろん、それだけではないけれど。
だからせめて、ヒビヤ君の笑顔が戻るまでそばにいてあげたい。
そう思う。
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