水色のしおり

□痛みと暖かさと
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時は数時間前にさかのぼる。

学校に登校している途中の僕を何者かが捕まえた。
突然背後から伸びてきた大きな手が僕の口をふさぐ。
その手の中の布に何かの薬品が含ませてあって……
やばいと思ったときには、すでに僕の意識は闇へ落ちていた。
気がつけば僕は粗末なシーツの上で寝転がっていた。
どこを見ても木で作られた壁や家具。
両腕を背中で縛られ、身動きがとれない。
ぼー、とする頭で状況を整理する。
どうして、なんで、僕はこんなところに……?
僕が意識を失った時のことを考えると、僕は何者かに捕まったのだろうか?
でも、なぜ……?

「おはよう、渚君。」

上から太い声が落ちてきた。
はっと身構えて顔を上げる。
「あ、あなたは……!」
そこにはこの前、烏間先生の代わりに体育の授業をやるといって学校にきた鷹岡先生だった。
最初はいい人だと皆認識していたが、体育の授業でやり方が厳しすぎ刃向かう生徒はかまわず投げ飛ばすような人だった。
皆の反発の中、烏間先生が選んだ生徒に負ければ出て行くと言った鷹岡先生の言葉に烏間先生が選んだのが僕で。
怖くて膝が笑っていたし、本物のナイフを持たされて手が震えていたけれど、なんとか烏間先生のアドバイスのおかげで勝つことができた。
すごく怒っていたが理事長の命で言葉どうり鷹岡先生は学校から去った。
それから何十日かたった今、この状況だ。
いい状況のはずがない。
「……何のつもりですか。」
僕は震える声をおさえて言った。
目の前で僕を見下ろすその顔がにやりと歪む。
「何のつもりって、君ぐらい頭がいいならわかるだろ?」
「……っ!」
その歪んだ笑顔に背筋が凍った。
よく見ればひっかき傷のような跡が先生の顔や腕にある。
自分でひっかいたのだろうか……?
僕がそんなことを考えていると鷹岡先生は笑ったまま続けた。
「あの日から全身がかゆくて仕方がない。何度かいてもおさまらない。どうしたらおさまる!」
先生の言うあの日とは鷹岡先生が学校から出ていった日のことだろう。
僕はだんだん感情が高まる鷹岡先生を注意するように見た。
何も役に立たない拳にした手のひらに汗がにじむのがわかる。
「考えて考えて出した結論だ。こうすればかゆみも止まるだろう。」
「え………がはっ!?」
突然、腹部に大きな痛み。
自分の腹に先生の靴がめり込むのが見える。
蹴り上げられた僕は壁にぶつかり床に崩れ落ちる。
一瞬失いかけた意識は壁にぶつかった衝撃ですぐにかえってきた。
「ごほっ……かはっ…」
のどの奥に酸っぱいものがあがってくるのを感じ、必死にこらえる。
うずくまる僕を見て鷹岡先生は楽しそうに笑った。
「ははっ、やはりスカッとするなあ!人をいじめるのは!」
先生は本当にすがすがしそうに声を上げて笑った。
僕は先生を見上げ顔をしかめながら、背中と腹の痛みに耐える。
僕には先生が同じ人間で重大な任務を背負うような役人だとはどうしても思えなかった。
「…うぐっ!」
今度は横に蹴られ床にたたきつけられる。
腕が使えず受け身がとれない。
もろに衝撃を受けた体は早くも悲鳴をあげていた。
相手はただの先生ではない。
軍人あがりで生徒に父親を押しつけ、暴力を与え続けた悪魔。
少なくともこの状況が僕にとって良くないのは確かだ。
起き上がろうとした体は先生の足に踏み落とされる。
最初に蹴られた腹の部分に集中して足が何度も振り落とされた。
「…あ、ぐっ……うっ……!」
「苦しそうだなあ!その痛みに歪んだ顔を見ると止められないよな、この仕事はさあ!」
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