中村春菊作品

□いつものこと
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仕事に支障をきたすことは無いが、少しでも時間ができると吉野の家を考える。

……

2日経っても不安は拭えない。

それどころか大きくなっていく。

嫌な予感がする。

そして、嫌な予感に限ってよく当たるのだ。


吉野side

「先生、こっちのベタ塗り出来ました!」

「えっと、じゃあ次こっちお願いします!」
部屋の中で原稿が人から人の手へ渡る。

トリに終わらせると言っていた原稿は終わっていなかった。

トリが出張に行って3日目。

つまり、今日が原稿の〆切日。

なのに、まだ3分の2の原稿が真っ白。

自分もアシスタントの皆も、必死に手を動かしているけど、今日中に終わるかと聞かれればNOだ。

だけど、それでも終わらせなければならない。トリに何度も言われている通り俺はプロなのだ。

「この原稿のトーン貼り終えました!他にペン入れ済んでるのありますかっ?」

「えっと、これお願いします!」

極度の疲労と眠気に手が上手く動かせない。
ペースは上がるどころか落ちている自らに苛立ちながらも必死にペンを走らせる。

毎度〆切ギリギリになってしまい、アシスタントの皆には本当に悪いと思う。

だから今度こそ〆切通りに仕上げようといつも思うのだけれども、それができないのだ。
自分が悪いのだから、トリにうるさく言われるのも仕方の無い事なんだ。

「おい、千秋。手、止まってるぞ」

「あっ、優ゴメン…」
アシスタントとして漫画家の中でも有名な優。

優に仕事を頼む人は何人もいるのに、優は俺を優先してくれる。

優の高い画力に一体何度助けてもらったことか。

しかし、それでも今回は間に合わない。

そう思った時ら、部屋の扉が開いた。

「こんなことだろうと思った」

聞き慣れた低い声―
出張に行ってるはずのトリがそこに立っていた。
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