中村春菊作品

□エイプリルフール 吉野千秋の場合〜
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今日は4月1日。エイプリルフール。

つまり、堂々と嘘をついて良い日だ。

だから、いつもうるさく文句を言ってくるトリに何か仕返しをしてやろう。

と言っても、どういう嘘をつくならもう決まっている。

トリに「別れたい」って言ってやるんだ。
それで、たまにはトリを落ち込ませてやるんだ!

「我ながら良いこと思いついたよなー」

あとは、どのタイミングで実行するかだな…
今日はは来月号に載せる読み切りについての打ち合わせだ。

だけど、正直それはやりたくない。

何故なら全く予定通りに進んでないからだ。
トリがガミガミというかネチネチというか、文句を言ってくる姿が目に浮かんでしまう。
だけど、行かないと余計に怒られるため行くしかない。

今日の打ち合わせはトリの家で行う。

家に着くと、いつでも入れるようにと渡された合鍵で入る。

家で待っていると思っていたトリはどこかに出掛けているらしくていなかった。

「トリどこに行ったんだろ?ま、いっか」

どうせトリがいないと打ち合わせはできないし、と思ってトリのベッドに潜り込む。

「やっぱトリのベッドは良いな〜」

何でか分からないけど、俺はトリのベッドじゃないとしっかり眠れない。

良いベッドを買ったとしても、トリのベッドの方がよく眠れる。
トリのベッドを堪能していると段々と瞼が重くなってくる。

そのまま欲求に抗わず目を閉じると、あっという間に心地よい眠りにおちる。

「…の、吉野!」

「ん、んぁ?」

大きな声に眠りから無理矢理引き戻される。
ぼやけている視界が定まるのと同時に眠っていた頭も覚醒し始める。

目の前には、見慣れたスーツ姿のトリ。

「あれ…?トリ…何で…」

「何でって、ここは俺の家で、これから打ち合わせするんだろ」

「あ〜、そーいえばそーだったな」

「そういえば、人の家で勝手にベッド入って寝こけてる上に、用事忘れてんじゃねぇよ」
「悪いって」

大きなあくびをしてベッドから出る。

「それで、どこまで進んでるんだ?予定ではネームは完成してるはずだが?」
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