中村春菊作品
□エイプリルフール 羽鳥芳雪の場合〜
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今日は4月1日。何か大きなイベントがあるというわけでもないため気にしない人もいると思うが、今日エイプリルフールだ。
つまり、今日は嘘をついても良い日、ということだ。
と、いうわけで、いつも迷惑をかけられている吉野にエイプリルフールを使って、何か仕返しをしてやろうと思う。
来月号の漫画についての打ち合わせと今月号の進み具合を確かめに吉野の家に行く。
「吉野、進み具合はどうだ?」
予定では、そろそろペン入れに入っている頃だが、吉野の場合、予定通りに進むはずがない。
合鍵で入ると、仕事部屋にいるはずの吉野の姿が見えない。
吉野はピンチになると現実逃避を始める。
これも、いつものことなので、俺は迷わず寝室へ向かう。
寝室に入ると、予想通りベッドの上の掛け布団は不自然に盛り上がっており、俺はそれを躊躇いなく引き剥がした。
「うわっ!!」
「原稿はどうした?」
「うるせぇ!人の睡眠を邪魔して良いと思ってるのか!」
「〆切を守らなくて良いと思っているのか?」
「それは…」
ベッドの上で更に縮こまりそうな吉野の腕を引っ張り、ベッドから降ろす。
「はーなーせー」
「離すわけないだろう」
嫌がる吉野を無理矢理椅子に座らせる。
「どこまで進んでるんだ?」
「9ページまでのネーム」
「あと半分以上あるじゃないか」
「仕方ねぇだろ。漫画の神様が降りてこねぇんだから」
「ネームが終わらないことを人のせいにするな」
「浮かばねぇもんは仕方ないだろ!」
「逆ギレするな。漫画を描くのはお前の仕事だろ?」
「別に描かなくても、生活できるくらいの金はあるし」
「そういう問題じゃないだろ。お前の漫画を楽しみに待ってる読者がいるんだぞ」
「知らねー…」
今日の吉野はいつもよりひねくれているようだ。
慣れてくるとはいえ、やはりムカつくものはムカつく。
だが、それと同時にチャンスだと思った。
仕返しをしてやるチャンスだと。
「吉野、本当に描く気がないのか?」