happiness
□happiness
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「ソルジャーの集合は完了しています。統括が呼んでいますので、どうかお早目にお越し下さい。」
神羅兵が“セレモニー”へと三人を誘う。
戦争に勝った訳でもないのに、ミッドガルに帰還しただけで『セレモニー』を行うとプレジデントのお達しが在り、ソルジャーは例外なく参加しなければならなかった。
「時間か…、さぁ二人とも、もう我儘を言ってられないぞ」
「俺は断る」
「ジェネシス!」
「急用が出来た。“彼”が心配なんだ。一人にはしておけないだろ?」
セフィロスの腕の中の男を見つめ、ジェネシスがしたり顔で言う。
「何をバカな「仕方ない、急用だ。」
アンジールの言葉を遮り、セフィロスがジェネシスを庇う。
非難の眼を向けるアンジールに、セフィロスは穏やかに笑んだ。
「ジェネシス、コイツを頼む。俺とアンジールは仕事に行って来るから、大人しく留守番するんだぞ?」
男をジェネシスに渡し、セフィロスはアンジールの背中を押した。
「任せてくれ」
優雅に言い、腕の中の男を大事そうに抱え、ジェネシスは兵舎のメディカルルームへと足を運んだ。
「…セフィロス」
「時間が無いんだろう?」
渋るアンジールをセフィロスは急かす。
「…最近甘やかし過ぎじゃないか?」
「“細やかな反抗”ぐらい大目に見ろ」
苦い顔のアンジールに、悠然と言い放つ。 セフィロスの言う“反抗”とはジェネシスのモノでなく、“社長命令”に逆らえない“英雄”である自分の代わりに、友人の“命令拒絶を許す”というものだ。
…自分は逆らえないが、命令に徹するつもりもないと言う細やかなモノ。
アンジールはそんな友人の心境を良く理解していたが、任務への責任感も在り、苦い顔で溜め息を吐く。
「そんな顔をするな、本当の地獄はこれからだぞ?」
「ああ。ウータイに居た方がマシな戦場が待ってるな」
セフィロスの皮肉に、アンジールも毒吐く。 苦い思いを、分け合える友人が居るだけで心強い。
アンジールとセフィロスはこれから行われるであろうセレモニーでの、プレジデント神羅の延々続く演説を思いうんざりして居たが、明るく笑い合った。
「様子はどうだ?」
華やかなセレモニーを終えて、アンジールはジェネシスの下を訪れた。
昼間、突如空から落ちて来た少年に、何か変化はあったのか?と、尋ねるアンジールに、ジェネシスは愛読書の『LOVELESS』を膝に置き、視線は眠り続ける男に向けたまま首を横に振る。
「…眠ったままだ。念の為フルケアも掛けてみたけど、…どこか怪我をしてる様子もないし、…眠ってるだけみたいだな」
「…長い昼寝だな」
ジェネシスと別れ、セレモニーが終わるまで4時間ほど経った。
眠っているだけならそろそろ目覚めても良い頃だ。
部屋の窓から暖かなオレンジ色の夕日が差し込み、柔らかな光が部屋を包む。
その穏やかな光の中で静かに眠る男の寝顔は、瞼を閉じた上からでも解る程…整い美しかった。
アンジールの周りにはジェネシス、セフィロスと、人並み外れた容姿の持ち主が居たが、彼らに負けず劣らずだろうと想像する。
「セフィロスは?」
一緒に来ると思っていたが姿が無い事に、ジェネシスが尋ねる。
アンジールは壁に背を預け腕を組み、応える。
「“いつもの”だ」
「ああ…気の毒に」
アンジールの言葉に、他人のことながらジェネシスはうんざりと呟く。
“いつもの”とは、プレジデント神羅による新たな英雄象の要求だ。
セフィロスは神羅のイベント度、社長に呼び出され、様々な神羅における英雄としての“要求”をされる。
内容を要約すれば2分と掛からないモノを、懇々と話される。
…拷問に等しい長話を流石は英雄なのか、涼しい顔で聞き受ける。
アンジールもジェネシスもそんな彼の姿を、只々感心していた。
「…あと1時間はかたいんじゃないか?」
「俺なら1分と持たないな」
「…………、…」
二人が笑い合う中、ベッドで眠る男が微かに身じろいだ…。
はっとし、視線を向ける。
…男の瞳が、ゆっくりと開かれる。
濃く、深い青色の瞳が揺れ彷徨う。
ベッドの傍らに居るジェネシスを見つけ、眉を潜ませた。
「やあ………気が付いた?」
どこか緊張したジェネシスの声が問う。
男はゆっくりと上半身を起こし、片手を額に宛て俯く。
頭痛でもするのか、少し苦しそうだ。
「………っ、此処は…?」
「…医務室だ、無理に起きなくても良い」
努めて穏やかにアンジールは言うが、男は不安そうに辺りを頻りに見渡して居る。
「…俺の剣は?」
「ああ、其処に在る。顔に似合わずゴツイね」
にこやかに言うジェネシスの指差す先に在る剣を見つけ、その柄を握りしめる。
男は自分の置かれた状況を理解出来て居ない様で、只困惑に瞳が揺らぐ。
「…此処は…?医務室って……何処の…?」
「「………」」
記憶障害?ジェネシスとアンジールは互いに顔を見る。