ハトアリ

□旅は道連れ
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「アリス、渡したいものがあるんだ」

それは、よく日が照った昼の時間帯のこと。
目の前に広がる赤いコートがやたら暑苦しく思えるような日だった気がする。
風は心地よく、空気は澄んでいた。
インドア派の私とはいえ、散歩でもしようかしら、とそんな気分にさせてくれた。
今さっきまでは。
「あ、アリスじゃないか!奇遇だなー、俺も旅の途中なんだ」

なんて言って突然現れたハートの騎士、もとい私の恋人は、やはり唐突に右手を差し出してくる。

手に握られているのは、飾りものだろうか。恐らく櫛といった類いのものだろう。

「……なに?」

「なにって見れば分かるだろ、櫛だよ」

もちろんそれは言われなくても分かった。
問題はなぜこの男が私にこんなものを渡してくるのか、ということだ。
花をモチーフにした古風で繊細な柄は、正直この騎士にはぜんっぜん似合ってない……。
そもそも贈り物なんてエースらしくない、はっきり言うなら恐い。
(……せめて雪でも降っていてくらたら)
なんて、常に晴れているこの不思議の国では起こり得ないことも、
考えてしまうくらいには。
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