少女ノ物語
□呼んでほしい
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学校からの帰り道、こはるさんと深琴さんと別れた私は家の道のりを歩いていると後ろから、知っている声が聞こえた。
「不知火?」
振り向くと、自分の恋人である暁人がいた。
「暁人・・・、アルバイトは?」
「他の奴が変わってくれたから無くなった。つか、お前一人かよ」
「途中まで、こはるさんと深琴さんと一緒に帰ってた」
それから何も話すことが思いつかず、二人で帰っているとふと思い出したことがあった。
暁人・・・宿吏暁人は自分のことは名前で呼んでくれないことだ。
告白された時に「名前で呼べ」と強制され、私は名前で呼ぶようになったのだが、私のことは告白のときだけ名前で呼ばれ、それ以降、未だに「不知火」の苗字読みだ。
(ちょっと理不尽・・・・)
「おい不知火、大丈夫か?」
「えっ」
「いや、ボーっとしてっから・・・いやいつもか」
「別にボーっとなんてしてない、考え事してただけ」
「・・・考え事?」
その言葉に対し、暁人はオウム返しをした。
「名前・・・」
「は?名前がどうしたんだよ」
「暁人、私には名前呼びを強制させて、私のことは名前で呼んでくれない」
暁人は、それを聞くと顔を赤らめた。
「なっ、んなことどうでもいいだろっ!!」
「どうでもよくない、私にとっては大事なことだから」
暁人の顔をじっと見つめていると顔をそらされた。
そらしていても顔は赤面のままで何気に可愛いと思ってしまった。
「な、名前で呼ばねぇといけねぇか?」
「うん、呼んでほしい」
「〜〜〜っ、恥ずかしっての・・・」
「呼んでくれないと「宿吏さん」に戻すよ?」
すると、暁人は目を見開くと同時に顔をしかめた。
「ずりぃだろ、それ」
「どっちもどっちだと思う」
だぁ〜、も〜などという暁人は、普段からは考えられないような面相をしているので面白い。
「はぁ〜・・・・」
溜め息をつき赤面をしたままこちらを向き聞こえるか聞こえないくらいの声で小さく私を呼んだ
「な、七海・・・」
名前で呼んでくれたのに対して私は嬉しさでいっぱいになった。
(名前を呼んでもらえるって、こんなにうれしいんだ)
「うん、何?暁人」
返事をすると暁人は「ふっ」ともいうような感じで微笑んだ。
それからまた「七海」と小さく繰り返し、私はそれに答えるように「うん」と相槌を打った。
数分は経ったのだろうか暁人は名前を呼ぶのやめて私を抱き寄せて、肩に顔を埋めた。
「暁人・・・?」
「んだよ、今話しかけんな」
「どうして?」
「恥ずかしくなってきた、お前の名前を呼ぶのに」
「私も、最初はそうだった」
そう言うと暁人は少しピクっと動き、抱きしめる腕を強くした。
「慣れればどうということはないよ」
「お前、男みたいな発言すんなよな」
「男だったら、暁人を好きにはなれない」
少しいじけたような声で答える。
「本気にすんなよ、今の発言」
「本当の事だから」
「確かに、そうだな。・・・・・・・・・七海」
「何、暁・・・・んっ」
暁人は、顔を肩から離してキスをした。
「さっきの事は前言撤回しろ」
「私、男ってこと?」
「俺は、お前が女じゃなきゃ嫌だ」
「ふふっ、私も男はいやだよ」
そうしてまたキスをした。
「好きだ」
「私も好きだよ」