明け方、噎せかえるような甘い芳香に嫌な予感を抱きつつ、自分が寝ていたベッドから起き上がる。
予想通り俺の周りには、色とりどりの花が散らかっていた。
足の踏み場もないとはまさにこのこと。
しかし慣れてしまった現象なので、特に驚きはしない。
ただ、片付けが大変だな、とは思う。
あ、待てよ。
どうやって処分するんだ?
ここはメカクシ団のアジトで、この部屋は―――。

「ただいまっす、シンタローさ……。どうしたんすかその花!?」

「はは……えっと、おかえり」

タイミング悪ぃな、おい。




――――――――――――――――――――――


「花を吐き出す体質?」

「あぁ。俺の吐いた二酸化炭素から出来てるんだぜ、この花」

あの後。
取り敢えず花をビニール袋に詰め込んでから一息ついたところで、シンタローさんに説明を受けた。
月に4、5回はこの現象が起きてしまうのだと。
そして冒頭の台詞である。
というか、二酸化炭素からって言い方はどうかと。
せめて吐息、と言ってほしい。
無理か。
シンタローさんだし。

押し込められた花を弄るシンタローさんを見て、ふと、あることを思いついた。

「ねぇシンタローさん。俺に花、くれませんか?」

「……何の」

「何でもいいっすよ。シンタローさんからもらえる花なら」

お願いしますと言えば、渋々と心底面倒くさそうに、両手を口元へと持って行った。

一体どんな花が吐き出されるのだろう。
どきどきと、期待と不安が混ざり合った気持ちが膨れ上がる。
恐らく花に意味を込めて吐き出すだろうから、目を盗まなくても、本人から直接聞かなくても、シンタローさんの気持ちが分かってしまう。
これは一種の賭なのだ。

シンタローさんが息を吐く。
するとそれはきらきらと光って、薄いピンクに色づいた。
シンタローさんの両手に収まると、素早く形を変えた。
出て来た花は……。

「桃、っすか?」

「あぁ」

細い枝の所々に咲いている、薄紅色の小さい花。
花言葉は確か、気立ての良さ、愛の幸福、貴方の虜、そして、

「貴方に夢中」

「っ、」

「それが、俺の気持ちだから」

そう言ったシンタローさんの顔は真っ赤で(きっと俺も同じなんだろう)。
あまりにも可愛らしかったものだから、お礼の言葉もそこそこに、つい、口を奪ってしまった。



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