陽炎
□『ありがとう』を贈る日
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じりじりと照りつける日差しも、森に入ってしまえばあまり感じなくなる。
温度も少し違う。
それでも汗は引かず、服は相変わらずべたついたままだ。
気持ち悪さに水浴びをしたくなる。
まぁ、すべてが終わってからでも遅くはない。
終わったらやろう。
森の奥の少し開けた場所にある、小さな家。
私が出て行く前と変わらないその家は、時が止まっているよう。
絡まる蔦も、開けられないように板が打ち付けられた窓も、クリーム色の外壁も。
全く風化した様子がなくしっかりと建っている。
ドアの鍵を開けドアノブを軽く回す。
なんの引っ掛かりもなく、扉は開け放たれる。
「ただいま」
声を掛けても、当然だが返事はない。
少しの寂しさを感じる。
数年前までは、誰も居ないことが当たり前だったのにな。
窓を開けてこもった空気を逃がす。
新鮮な森の空気が代わりに入り込んで気持ちが良い。
ついでに、うっすらと積もった埃を箒で掃いて屑籠へ。
本当はもっと綺麗にしてあげたいけど、時間がないからここまで。
さぁ、お母さんの所に行こう。
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