main2

□精一杯の、本音
1ページ/1ページ



時計の針がちょうど深夜1時を回る頃、突然鳴り出した携帯電話によって目が覚めた。


「だれ…」


うわ言のように呟いた言葉は上手く音になってくれない。
登録されていない番号は初期の着信音にしてあるため、聞き慣れない電子音に戸惑う。


「…もしもし?」

『出るのが遅い』

「え、あ、すいません知らない番号だったので」


沈黙の後、溜め息が微かに聞こえた。
何故知らない相手に謝らなくてはならないのか、そんな疑問が頭を過ぎるがこの声には聞き覚えがある。


「ひ、雲雀さんですか?」

『うん』

「どうして私の携帯電話知ってるんですか?」

『君さ、日曜日暇だよね?』


質問を完璧無視され、更に質問で返され、その上まるで暇人みたいな言い方をされた。
その前にこの時間帯に電話なんてのは非常識ではなかろうか。
言えないけれど。


「日曜日は友達と花火大会に」

『暇だよね?』

「あ、う」

『もちろん僕のために空けてるよね?』

「す、すいませ…!」


突然低くなった声に身震いし、誰も見ているはずがないがベッドの上で正座をし、頭を何度も下げる。そりゃもう必死に。
会社員が電話で謝る心境を、若くして悟ってしまった。


『あ、クラスの集金の期限昨日までだったけど』

「ああ!」

『出してないの君だけ』


先程より声が明るくなったのは気のせいではない。まるで勝ち誇ったように、楽しむそうな口調。


『僕が立て替えといてあげたから』

「あ、ありが」

『だから日曜日夕方5時に駅前』


浴衣必須、と付け加えて電話を切られた。
まるで死刑宣告でもされたかのような、崖の上から落とされたような衝撃が走った。
ツーツーという音だけがやけに耳に残る。


涙で滲む視界には、着信のあった番号を【悪魔】と名前を付けて登録したディスプレイ。


これがこの先、彼氏というグループ名の【雲雀恭弥】と登録されることなど、まだ知らなかった。




end

200090906改定



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ