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□精一杯の、本音
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時計の針がちょうど深夜1時を回る頃、突然鳴り出した携帯電話によって目が覚めた。
「だれ…」
うわ言のように呟いた言葉は上手く音になってくれない。
登録されていない番号は初期の着信音にしてあるため、聞き慣れない電子音に戸惑う。
「…もしもし?」
『出るのが遅い』
「え、あ、すいません知らない番号だったので」
沈黙の後、溜め息が微かに聞こえた。
何故知らない相手に謝らなくてはならないのか、そんな疑問が頭を過ぎるがこの声には聞き覚えがある。
「ひ、雲雀さんですか?」
『うん』
「どうして私の携帯電話知ってるんですか?」
『君さ、日曜日暇だよね?』
質問を完璧無視され、更に質問で返され、その上まるで暇人みたいな言い方をされた。
その前にこの時間帯に電話なんてのは非常識ではなかろうか。
言えないけれど。
「日曜日は友達と花火大会に」
『暇だよね?』
「あ、う」
『もちろん僕のために空けてるよね?』
「す、すいませ…!」
突然低くなった声に身震いし、誰も見ているはずがないがベッドの上で正座をし、頭を何度も下げる。そりゃもう必死に。
会社員が電話で謝る心境を、若くして悟ってしまった。
『あ、クラスの集金の期限昨日までだったけど』
「ああ!」
『出してないの君だけ』
先程より声が明るくなったのは気のせいではない。まるで勝ち誇ったように、楽しむそうな口調。
『僕が立て替えといてあげたから』
「あ、ありが」
『だから日曜日夕方5時に駅前』
浴衣必須、と付け加えて電話を切られた。
まるで死刑宣告でもされたかのような、崖の上から落とされたような衝撃が走った。
ツーツーという音だけがやけに耳に残る。
涙で滲む視界には、着信のあった番号を【悪魔】と名前を付けて登録したディスプレイ。
これがこの先、彼氏というグループ名の【雲雀恭弥】と登録されることなど、まだ知らなかった。
end
200090906改定