物語

□第一章 土曜日
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私は少し考えてから周りを気にしながらも小声で電話に出ることにした。


『もしもし?いま電車』

『え!?いまどこ?ちゃんと向かってる?』

『向かってるよ!だからいま電車だってば!』

『お、えらいじゃん。じゃあ遅れるなよ〜』

『ぃゃ…東京着くの3時半だよね?10分くらい遅れそう…』

『はぁ?』

『ごめん!でもちゃんと向かってるから!』

『…わかった。じゃあついたら電話して』



電話を切って周りを見渡すと私の斜め前に立っているおじさんと目が合った。

私はすぐに目をそらして申し訳なさそうにうつむいた。



このくらいの用事だったら本当はメールですませればいいのだけど、私とたいちはお互いのメールアドレスを知らない。

だから私がいまこうやって電車に乗って東京駅に向かっているのも昨日たいちからかかってきた一本の電話からだった…。
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