* * * 沈んだ気持ちのまま10代目の誕生日を迎えた。 集まるメンツはいつもと変わらない。10代目の誕生日だってのに、全員が好きに騒いで楽しんでいた。いつものことだけど。 その中で、10代目とハルが話し込んでいる姿がやけに目についた。 すげぇイライラする。 あんなヤツを好きなんてどうかしてるんじゃないかと自分でも思うけど、否定すればするほど苛立ちが募り再認識するばかりで自滅していく。 ハルを10代目と取って奪いあう気持ちは更々ない。 かといって手放しで喜べもしない。 10代目が選んだ相手なら間違いねぇって思うのに、なんでアホ女なんですかと問い質したい気持ちも交錯して、頭が痛くなりそうだった。 寄りによってハルじゃなくてもいいんじゃないですか。 そう思わずにいられない。 最高峰のマフィアであるボンゴレのボスなら、もっと美人でもっとイイ女でも誰でも選び放題なのに。 …なんて、敬愛する主に不満が鬱積するなんて最悪な気分だ。 ますます自己嫌悪に陥り、せっかくの10代目の誕生日なのに俺は最初からずっと上の空。 ふと気づけばお開きの時間になっていた。 * * * 「獄寺くん、どうかした?」 女子たちが率先して片付けを始める中、俺が1階のベランダで一服していたところに10代目が隣にやってきた。 携帯灰皿に吸い殻を突っ込んでポケットにしまう。 「すいません。ちょっと考え事がありまして」 「ならいいけど。元気がないから皆心配してたよ?」 日が暮れかけた空。 緋色と闇のダークブルーが果てのないキャンバスに幻想的なグラデーションを描いて頭上いっぱいに広がっている。 闇が段々と支配していくこの空は今の気分と似ていた。 「まぁ、なんとなく察しはつくけどさ。獄寺くん、こないだウチに来てたんだろ?母さんから聞いた」 「えっ!あの……っ。すいません」 クスリと笑った10代目は「それはいいんだけど」と両手を頭の後ろにつけて空を見上げる。 「多分、前の話を聞かれちゃったんだよね。獄寺くん的にはどう思う?ハルの事」 「どう、っていうのは…」 「うーん。俺はさぁ、どっちもすげー大切だから押し付ける気はないんだよね。もしかして獄寺くんがハルを変に意識してるかもとは思ってたけど」 平然とハルの話を持ち出されるもんだから、俺は内心焦りまくっていた。 10代目はお優しい。 きっと俺の気持ちも汲み取ってくださっているんだろう。 ――だから。 この人に一生ついていこうと決めたときから、優先順位は決まっていた。 「お似合いだと思いますよ」 「は?」 「あのアホ女が10代目に相応しいか分かりませんけど、貴方が選んだなら間違いないです!」 そう言うしかなかった。 ボスの幸せを願うのは右腕として当然のことだから。 歪みそうになるのをこらえて笑顔を向けたら、10代目はあんぐりと口を開けていた。 「――キミ、なんの話をしてるわけ」 「え?だから10代目とハルが恋人になったっつー話じゃ…」 「ちょーー!!何を聞いてたんだよ獄寺くんっ!んなわけないだろっ!」 鋭く鍛えあげられた10代目の素晴らしい突っ込みに感嘆しつつも、なぜ自分がそれを受けたか意味が分からず俺は目を丸くした。 10代目は長い溜め息のあと、困った風に眉を潜めて笑う。 「あー、なんか分かってきた。つまりだ?中途半端に聞いただけで、話の本筋は誤解したままなんだ。へー、あっそう、ふぅん…」 「じゅうだいめ?」 ――誤解? 確かに結果的には盗み聞きしちまったわけだけど、あんな場面を見て誤解も何もないはずだ。 意味ありげな10代目の言葉にただただ狼狽える。 突然、鼻先に触れそうなくらいの距離で10代目に人差し指を突きつけられた。 「じゃあ質問を変えよう。獄寺くんは俺とハルが付き合ってるって勘違いしてたんだよね。それでどう思った?」 「――別に、その。いいことじゃないかと」 「ウソツケ。そんな顔してないよ」 …だからってどうしようもないじゃないっすか10代目。 両方を天秤に掛けるまでもない。 貴方はアイツが好きで、あのアホ女は前から10代目一筋だった。 その情熱が通じて10代目がアイツに振り向いたんだとしたら、右腕の俺は身を引くより他にねえんだし。 「俺が口出しすることじゃありませんから」 「そんな建前は聞いてない。俺にムカついたんじゃないの」 凛とした琥珀色の瞳が俺を貫いて離さない。 真っ直ぐな視線は俺の心中を見透かしているようで、少しだけたじろいだ。 認めたくない事実を認めなきゃなんねーし、それ以上に。 …俺がこの人に、嘘つけるわけねぇんだよな。 10代目と視線が合わせられなくて、ため息をついた俺は重い口を開いた。 「テメェの気持ちに気付いたのは、あの時に部屋で10代目とアホ女が抱き合ってるところを見たときだったんすけど。10代目にお仕えすることになってから今まで一度もこんなことなかったのに…すげー腹立ちました」 ハルは泣きながらもはっきり言っていた。 ――好きなんです あれは10代目に向けられた言葉。 それを受け入れた10代目に、俺は少なからず嫉妬した。 |