「…変な顔しないでください。10代目」 「え?そう?」 執務室で書類をまとめていた獄寺は、ニヤニヤと自分を見る主に横目で叱責した。 「だって嬉しいんだもん。君とハルとの結婚式」 ■そばにいる理由・2 「お言葉ですが」 と一言おいて、獄寺は敬愛する主に向き直り背筋を伸ばした。 「30近くになっても10代目を諦めねーし嫁の貰い手なんて見つかりっこないから、仕方なく、もらってやるだけです」 獄寺は「仕方なく」の部分に力を込めてはっきり言い切った。 綱吉はデスクに肩肘をついてふふ、と口元に弧を描く。 「照れちゃって」 「照れてません!!!」 この度、晴れて獄寺とハルの挙式が正式に決定した。 その報告を受けてからというもの綱吉はいつもこの調子だ。 なるべく気にしないようにしていたものの、さすがに獄寺も居住まいが悪くて敬愛する主に苦言を呈す。 「でもまぁ、君でよかった」 緩んだ顔から一転、口元に笑みを浮かべながらふいに凛とした表情を向けた綱吉は獄寺に言った。 「ハルを幸せにしてあげてね?」 知り合ってから10年以上。 仲間が幸せになるなら、こんなに嬉しいことはない。 綱吉にとって二人とも大事な友達だった。その二人が婚姻を交わすとなれば、自分のことのように浮かれてしまうのも無理はない。 あからさまに苦い顔をした獄寺は、豪奢なデスクに座る綱吉に改めて向きなおる。 「…それはお約束できませんが」 「ちょ、こらこら獄寺君」 「一生かけて守ります」 難しそうに眉を寄せるのは獄寺の昔からのクセ。 静かに、けれどはっきり力強く言い切る彼に綱吉は目を丸くする。 「わぁ、獄寺君かぁっこいい〜!」 「それ以上のことをするつもりはありませんので」 余りにきっぱりと断言するものだから、綱吉は思わず笑みがこぼれた。 彼なりの照れ隠しなのだろう。 大人になり成長した獄寺は、昔よりも随分落ち着いたように見えるけれど、実は真逆だったりする。 意外と人情脆く熱血漢だと気付いている者は、今のボンゴレ内でも守護者メンバーと一部の人間くらいだろう。 根っこの部分はそう簡単に変わらない。 彼がこうと決めて行動するのは、自分の情動に突き動かされた時だけだ。 冷たいような言い方をしているけれど、きっとハルをとても愛していて、大切にしたいと思っている。 でなければ二人の間に「結婚」なんて話は浮上しない。 人には上手く言えない不器用さが、彼の性分なのだ。 昔から変わらない旧友が微笑ましくて綱吉がにやにやしていると、「さっさと仕事してください」と再び右腕からお叱りを受けた綱吉だった。 * 「違いますよツナさん」 ワザとらしいほど大きなため息をついたハルは、ふてくされた顔を浮かべながらカシスソーダをストローでぐるぐると混ぜる。 そして目を座らせて向かいに座る綱吉と京子を見た。 「女の子に平気で暴言吐くし、見た目がちょっとくらい良くても性格がサイアクなんですから。結婚できないのはアウトローな獄寺さんのほうです。私がしてやってるんですよ」 「……ああ、そう」 見方が変われば意見も変わるらしい。 綱吉と京子、それにハルは結婚の報告や準備の相談がてらに3人でカフェテリアに来ていた。 ハルは友人代表の挨拶を綱吉と京子に頼んでいた。 もちろん、2人は快諾した。大事な友達が幸せになる席で、手伝えることがあれば純粋に嬉しい。 話のついでに先日の獄寺との会話を持ち出した綱吉だったが、ハルは獄寺同様、「仕方なく」という態度を取った。 人生の節目に立とうという2人は、少しも浮かれる素振りを見せない。 そういう意味では獄寺とハルは凄く気が合っていると綱吉は思う。似た者同士だから意外とうまくやっているのかもしれないけれど。 呆れてため息をついた綱吉は京子に話しかけた。 「どっちもどっちだよねぇ」 「ハルちゃんたちってラブラブなんだねー。うらやましいな」 「ちょっとーーっ!ツナさんに京子ちゃん、今の話聞いてました!?」 「照れちゃって」 「照れてませんよツナさん!!」 綱吉が獄寺に言ったことをハルに返すと同じ言葉が戻ってくる。 しょうがない二人だな、と綱吉は優しい口元に薄笑いを見せた。 「獄寺くんもハルも、いつまでたっても可愛いよね」 好きだからお互いを意識して強気な態度を取ってしまう子供みたいだ、と綱吉は思う。 成長してそれぞれの道に進んだ今も、昔と変わらない二人を見ていると自分も中学時代にタイムスリップした気になって嬉しい。 「ツナさん、どういう意味ですか。いい風に聞こえませんけど」 「いい意味だよ。多分。君たちはそのままでいてね」 ハルがほっぺたをぷくぅと膨らませて、京子が朗らかに微笑む。 あの頃と何一つ変わらない関係に、綱吉は心が仄かに温まっていくのを感じた。 |