■ 獄ハル ■

□逆上
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■逆上

「…なんですか、これは」
俺のワイシャツのボタンを2つ3つ外したハルは、鎖骨辺りにあったキスマークを見つけて胸ぐらを掴んできた。
そのまま体重を乗せ、壁に突き飛ばされる。
「なんだって聞いてるんです…っ!!」
「仕事上、必要だって判断した。それ以上も以下もない」
「そういう問題ですかっ!お仕事だったらなんでもしていいの!?」

ハルは顔を真っ赤にして捲し立てる。
今まで見たこともない怒気をはらんで睨み付け、肩口に置かれたハルの指先が肉に食い込んだ。

悔しい、悲しい、許せない。
血が滲むほどの力強さはごちゃ混ぜになった感情の全てを訴えてくる。

「ナニ考えてるんですか貴方は。バカじゃないですかっ。信じられません!…―はっ、だったら獄寺さんは、死ぬ必要があれば死ぬんですね」

嘲笑を浮かべたハルの瞳は昏い。
激しく批難する澱んだ黒目が鋭く突き刺してきたけど、俺にだって引けない矜持がある。

「まぁな」
「…獄寺さん?」
「どうしても必要なら俺は躊躇わない」
「赦すわけないでしょう?――そんなこと、ハルが赦しません!!」

ヒステリックに叫んだハルは襟を強引に引き寄せて、噛みつくキスをしてきた。
かと思えばボロボロと大粒の涙を流しながら紅い跡を目掛け殴りかかってくる。

「これもです!これも!こんなもの、ハルは赦しませんからね。こんなもの認めない!ハルのものを横取りされて黙ってるわけにいきませんっ」

どう罵倒されても仕方がないって覚悟はできていた。
けれど実際目の当たりにするとめちゃくちゃに泣き叫ぶコイツが余りにも憐れで、可哀想で、悲しい。

「…赦せない、一生。ぜったい赦さないですから。獄寺さんが誰のものか、二度と忘れさせないためにもその体に叩き込んであげます」
「ハル?」

先程の激情はどこへ消えたかと思うほど、今度は小さく身を震わせて擦り寄ってくる。
それから、付けられた跡を消すように俺の胸元に柔らかな唇を重ねた。

「他人のものになるのもダメ。――死ぬのはもっとダメです。例え貴方自身に理由があろうとも、ハルには関係ありません。…そんなことしたら怨んでやる」
「分かった」
「ハル、本気ですよ?」

言葉の代わりに細い腰を抱き締めた。
言い訳はしねぇ。謝りもしない。俺はボンゴレの為ならきっとハルを見棄ててでもやり遂げるだろうから。
例えそれが自分の本意でなくても。

お前が俺を糾弾すれば激しい後悔に苛まれながら、同時に心のどこかで安心していた。
――俺はまだ人間だ。お前はまだ、こんなどうしようもない俺を求めている。
なんて自分勝手で利己主義なんだろうって自分でも思うけど。

「お前は俺だけを見てりゃいいんだよ」
「…ほんと酷い人ですね」
「ホラ、お前を叩き込むんだろ。やってみせろ」

助けを求めるように俺に縋ってきた細い体を力の限りきつく抱き締めた。
枯れた心を潤わせるひとしずくが、脳内まで冷えきった体に心地いい。

――今は何も考えたくない。
ただただお互いを貪り尽くしていたかった。


fin.





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