■ 獄ハル ■

□Happy Birthday for xxx【ツナ誕】
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■Happy Birthday for xxx【ツナ誕】

見るつもりじゃなかった。

10代目が部屋にいらっしゃるって聞いてお屋敷に上がらせていただいて、玄関にアホ女の靴があったことに気付いていたけど構わずにお部屋へ向かった。
アホ女が10代目にご迷惑を掛けてたら怒鳴り付けてやる。
そう考えて静かに階段を上ると、誰かの啜り泣く声が聴こえた。
ドアが少し開いていたからそこから中の様子を覗くと、10代目とアホ女――三浦ハルが向かい合って座っていた。

「…ハル?ちゃんと言って」
柔らかな三日月に瞳を細めた10代目は労るような優しい声でハルに話し掛け、俯いて泣いてるであろうハルの頭を片手で引き寄せる。
「泣いてちゃわかんないだろ。自分に正直でいいんだよ」
「―…き、なんです」
ハルはこちらに背を向けていたからどんな顔をしているか分からない。
おずおずと10代目の背中に腕を回し彼の腕の中で慟哭するハルは、俺が知ってるいつものアイツと違って普通の女に見えた。
「ハル、好きみたいなんです。ごめんなさい…ツナさん」
「なんで謝るの。それでいいんだって。ハルがちゃんと素直に気持ちを認めてくれて、俺も嬉しい」
「うー…でも、でもっ!」
「大丈夫。なんとかなるから。つうかハルが困ったら俺がなんとかするから。泣かなくていいよ」
「ツナさぁんっ!」

結局、10代目にご挨拶もせずにその場を辞した。
あのタイミングで突入するのは憚れるし、なにより。

――10代目に対して、すげぇムシャクシャしたから。

* * *

「もうすぐツナくんの誕生日だよねー。山本くんも獄寺くんも行くでしょ?」
教室で野球バカといると、笹川京子は黒川花と連れ立って俺たちの所へやってきて視線を上げる。
…10代目は笹川が好きなんだって、ずっと思ってたんだけど。
だから俺の中で油断があったのかもしれない。アホ女の恋は絶対に実らないんだって。
「おーいくいく!俺は午前中の部活が終わってから合流するつもりだけど。ハルも来るんだろ?」
山本の言葉に俺は一瞬、ドキリとした。
つーか、名前聞いただけで動揺するとかバカじゃね?
「うんっ。昨日ハルちゃんに電話したら来るって。私たちはケーキの他にお菓子とか作って持っていくね」
「そか!ツナもぜってー喜ぶのな」

顎を手に乗せて外を見た。
もし笹川が、10代目とアホ女が付き合ってるって知ったらショックを受けるだろうか。
笹川だって10代目に想いを寄せているはずだ。前はそうでもなかったけど、最近は10代目を見る目が違ってきていたから。
10代目ほど素晴らしくてお強くて渋いお方なら、誰だって惹かれずにはいられない。
当然だ。世の中の絶対常識だ。
なのに俺の中では、この前からどす黒い感情が渦巻いている。
10代目を尊敬する気持ちは変わらないのに、彼に対して負の感情を抱く自分にも少なからず落ち込んだ。

大体なんで俺がこんなにイライラしてんだよ。
あのアホ女さえいなければ、右腕として純粋に仕えることができたはずなのに。全部あのアホが悪い。
いちいち人の言動にケチつけて来やがったり、馬鹿の一つ覚えみたいにどんなことでも一生懸命だったり
――本当に辛いときに、人前で笑って見せたり。
事あるごとに視界に入るアホ女が気になり出したのは、あの日の光景を目の当たりにしてしまったからだ。
もっと前からこういう感情が芽生えていたのかもしれないけど。
自覚したのがつい最近だったっていうだけで。
「なに空を睨んでんのよ、獄寺。あんた最近ヘンだよ。イライラすんのは外でやってよね」
「黙れ黒川」
「なんだ機嫌悪いのか獄寺ぁ。牛乳わけてやろっか」
「うっせーつってんだろ!」
黒川と山本が鬱陶しくて席を立ち、俺はそのまま屋上に向かった。
「…獄寺くん、どうかしたのかな」
「さぁ?ほっときなよ京子」

呆然と見送る3人が好き勝手なことを抜かしていたけれど、俺だってどうしていいか
――分からない。





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