■magic 背後から抱きしめて、上質な絹のように滑らかな柔肌へそっと触れる。 骨ばった長い指はハルの下腹あたりを何度も往復した。 魔法か何かを掛けられているようだ、とハルは思った。 へそよりも下の辺りを何度も優しく撫ぜる大きな手は、同じ部分ばかりを温める。 共に逐情した後の甘い余韻を残したこの時間がハルは好きだった。 会話はなくとも愛が溢れる空間にうっとりと夢心地になるから。 「隼人さん」 「ん?」 「男の子と女の子、どっちがいいですか」 「――できたかどうかまだわかんねぇだろ」 「もしできたらの話ですよ」 反対側の腕をハルの首の下へ敷きそのまま頭を抱え込んでいた獄寺は、彼女の髪に顔を潜らせてキスを繰り返している。 セックスのように激しくて甘い口づけではなく、ただ気持ちを素直に表しただけの触れ合い。 少しくすぐったいけれど、獄寺の穏やかな愛撫がハルには気持ちいい。 「希望は男だけど、生まれるならどっちでもいい」 「女の子だったらがっかりします?」 「いんや。女は手放したくないくらいすげー可愛がっちまいそうだし、男なら強く育てたいし。性別はあんまり興味ないな。産まれてきたらどっちでも大事にする」 「…ですよね。ハルもです」 「絶対、何があっても俺が守るから。お前も、子供も」 結婚してから今までずっと避妊を続けていたのに、獄寺が急に「子供が欲しい」なんて言い出したからハルは最初、少しだけ戸惑った。 近頃の旦那様はボンゴレの激務に追われているようで、今日も久しぶりに帰宅したかと思えば玄関先でいきなり抱きしめてきたのだ。 だけどハルもずっと子供を望んでいたしその意見には大賛成なので断る理由もなく、二人は夕食も取らないままざっとシャワーを浴びるとすぐにベッドへ移動した。 ハルの知らないところで、彼自身に何か思うことがあったのかもしれない。 そう考えてしてしまうほど性急なセックスだった。 ここまで無我夢中に求められることは滅多にない。若いころならともかく結婚してからは、特に。 同棲しているにも関わらずなかなか彼に会えない寂しさはハルにもあったし、むしろ余裕もなく彼に抱かれるのは嬉しい。 自分は彼に愛されているのだと、身体で再確認できるから。 「ハル…」 「――んっ、」 獄寺のキスがハルの耳へとたどり着いた。 耳たぶを柔らかな唇ではさまれ、息を吹きかけられる。その心地よさにハルから甘い嬌声が零れ落ちた。 ふわふわと体が浮いてしまっているみたい。肌が重なった部分から、溶け合ってしまえばいいのに。 微電流みたいな快感が頭のてっぺんからつま先まで一気に駆け抜け、ハルは体をふるりを震わせた。 獄寺から与えられる全てが気持ちよくて堪らない。 ハルの心はざわざわと揺れだし、鼓動が再び駆け足を始めていく。 獄寺の腕の中で反転して彼を見上げる。 日本人とは違う翡翠の瞳が深みを増し、情欲の炎を宿してハルをじっと見つめていた。 普段から小馬鹿にされたり悪ふざけをし合ったりしているせいで忘れがちになるのだが、彼が類希な美貌の持ち主であったことをこういう瞬間に思い出し、ハルの心臓は一気に加速した。 こんなに綺麗なヒトに愛されると思うと羞恥心で体が強張る。 何度も繰り返してきたはずなのに、本物の宝石よりも美しい瞳に見つめられれば急に居たたまれない気持ちでいっぱいになってしまうのだ。 けれどそれを彼に知られたくはない。 ハルが羞恥心にきゅっと目をつぶれば、ほっそりした腰に腕が回されて肌が密着した。 顎を持ち上げられると舌が強引に分け入ってくる。 「――ン、ふぅ…。んんっ」 「お前、普段とギャップありすぎ」 唇を離した合間の言葉に瞳を開いた。 真剣な眼差しがまっすぐハルを貫く。――ああ、すごく綺麗、とハルは思った。 この宝石に見つめられると「好き」の気持ちが溢れかえって、彼以外のことが考えられなくなってしまう。 「はひ?」 「いつもは可愛げがねぇくせに…」 言葉の続きはキスの中へ消えた。 自分を強く抱きしめる腕の強さがその答えのような気がして嬉しい。 ――私と同じくらいに、それ以上に。 もっともっと興奮して。抱いてほしいの。 呪文のように心の中でそっと唱える。 愛が溢れるベッドの中で、幸せそうに微笑みながら。 |