■ 獄ハル ■

□女子会
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三浦ハルが街中にある話題のカフェで友達と談笑していると、ガラスの向こう側に待ち人の姿を見つけて手を振った。

「ビアンキさんにラルさんですー!」
「あ、ホントだね」

笹川京子もハルの言葉で彼女たちの姿を確認し、小さく手を振る。
一緒にいた黒川花とイーピン、クローム髑髏も一時おしゃべりを中断してビアンキとラル・ミルチを迎え入れた。

…今日はここで、女の子だけの集まりが企画されていた。

主催者はハル。先日の「ハル感謝デー」(一人きりのイベントは社会人になった今も続いている)のときに、ラ・ナミモリーヌで出会った京子(彼女もまたマイナー企画を続けていた)と「皆でケーキを食べながら集まりたいですよね」と話していたことが実現した形だ。
それぞれ大人になり、中学生時代のようにいつでも仲間たちに会えるわけじゃない。当たり前だと分かっていても、ハルにはそれが少し寂しい――ということを、ハルは京子に話していた。
「そうだよね」困ったようにほんのり微笑む彼女もまた、同じ気持ちなのだろう。

綱吉や獄寺、山本たちは人には言えないがマフィア稼業の激務に日々追われている。忙しい彼らにそんなワガママを言えるはずもなくて。

「だったら、集まれる人だけで集まろうよ」京子は言った。「イーピンちゃんとかクロームちゃんにも声を掛けてみない?」
「はひっ。いいですね京子ちゃん!いっそ女子会をしちゃいますか」
「うんうん、絶対楽しいよー」

…という経緯から、ハルは知り合いの女子に連絡したところ、イーピンやクローム、それに花からOKの返事が来た。無理かなと半分諦めていたビアンキが、ラルを連れてくると言ってくれたときは流石のハルも飛び上がって驚いたけれど。

ハルを始め、今日のちょっとした集まりをみんな心待ちにしていたのは間違いない。

*

「みんな、変わらんな」
「はひー!ラルさんお久しぶりですぅ。ご結婚おめでとうございます!」
「今日は都合が良かったわ。ラルと式の打ち合わせをしていたの」

連れだってやって来たビアンキとラルは、妹分たちへにこやかに微笑みかけながら空いている席へ腰掛けた。
京子は隣にいた花の方へ少し移動しつつ、ビアンキの発言に小首を傾げる。

「ビアンキさんは何するんですか?」
「もちろん料理よ…と言いたいのだけれど、リボーンが挙式の間はずっと隣に居てほしいって言うから、ドレスの見立てや会場の装飾の相談に乗っていたの。彼ったら私には甘えるところがあるのよね」

どうしようもない人、と口では言いつつビアンキの表情は甘く緩んでいた。
そんな彼女を見て、クロームはそっと頬を染めると黒々とした瞳を潤ませビアンキに憧れの眼差しを送る。

「…仲、いいですね。羨ましいな…」
「真意は違うわよクローム。まぁ、ある意味私らも助かったかも」

突っ込み担当の花が明後日の方向を見た。この場でビアンキの料理の腕を正しく理解しているのは、ラルと花くらいのものだろう。
イーピンは身を乗り出して向かいに座るラルへ顔を寄せた。

「どんなドレスにするんですか?私、結婚式初めてだからすっごい楽しみだなー」
「お、俺はファッションなど分からん!全部ビアンキに任せてある!」
「ラルはスタイルがいいから、Aラインのシルエットが映えるドレスにしたの。イーピンも楽しみにしてなさい」
「はいっ!私の時も一緒に選んでくださいねビアンキさんっ」
「任せて頂戴。素敵なドレスにしましょうね」

3人のやりとりを目の当たりにして、ハルは羨ましくなった。
あれだけコロネロとの入籍を拒んでいたラルが、ついに折れて半年後には挙式する。照れ屋なラルからその話題はなかなか登らないが、幸せの真っ只中にいる女性はキラキラ輝いて純粋にきれいだな、と感じた。
結婚式は女の子の夢だ。
綺麗なドレスに身を包み、みんなからの祝福を受けて、隣には素敵な旦那様。
けれどハルにとって、その旦那様が一番の問題だった。

「いいなぁラルさん…ハル、ジェラシーですぅ。コロネロさんだったらラルさんのドレス姿、すっごく喜んでくれそうですよね」
「喜んでいらん!だいたい俺はいいと言ったのに、アイツの我が儘で式を挙げることになったんだ」
「わぁ、愛されてますねー」
「京子!違うと言っておろうが!」
京子の言葉に珍しいほど頬を紅潮させたラルヘ、ビアンキが追い討ちをかけた。
「あら照れることないわ。愛し合う者同士が結ばれるのに、なにを恥じることがあるの」
「ビアンキさん大人ぁ〜。私もラルさんみたいな彼が欲しいなー」
今日の集まりの中でイーピンは最年少だ。初恋も未体験だけれど、やはり結婚式には憧れがある。
うっとりと宙を見つめる彼女に、ツッコミ担当の花はニヤリと微笑んだ。
「イーピンは可愛いから学校でモテてんでしょ?了平から聞いたよ。てゆうかラルさん、ウチもそろそろアイツに考えてほしいんで、ド派手な式、期待してます」
「派手…。幻術、使う?それなら私もお手伝いできる、かも」
花とクロームの視線が耐えられなくて、ラルは両手でカフェの机を叩いた。
「使わんでいいクローム!それと全員だまらんかーっ」

真っ赤になって反論するラルに、皆から微笑ましいヤジが飛ぶ。
それぞれに祝福してくれているのが分かるから余計にくすぐったくて、ラルはそれを誤魔化すように、運ばれてきたアイスコーヒーを受け取ると一気に吸い込んだ。

「ラルとコロネロは同業者だからそうでもないけれど、結婚は花たちにとって難しい問題ね」
ビアンキが花にゆったりと視線を向けた。
先ほどの言葉から、花はきっと結婚願望があるのだろう。けれど一般人とマフィアでは余りにリスクが多すぎる。ビアンキはグリーンアイをさらに色濃くさせて、柔らかくも鋭い視線を花に送った。
ビアンキに顔を向け頬杖をついた花は「まぁ、そうなんだけどね」と前置きして言った。

「今さらでしょ。巻き込まれるのは昔からだし、なにより一緒じゃなきゃ了平の安否もわかりにくいんだよね。残される方は不安ばっかりだしさー。何かあったときの第一報は“彼女”のままだと教えてもらえないじゃん。なら、危険でもいいから一緒がいいって思うわよ。私が知らないところで勝手に死なれるよりは、全然マシ」
「花ちゃん…」
遠い目をする花に、ハルは2年前を思い出す。了平が大ケガを負ったときのことだ。当時、とある抗争の最中に仲間を守るため了平が瀕死の重傷を負ったと、ハルは獄寺からそれとなく聞いたことがある。一般人の花には出張ということにして真実を知らされず、ハルも獄寺から口止めされていた。

…花はその時のことを言っているのだ。



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