MASQUERADE

□MASQUERADE
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「…おかしいな…」
ベースを取り出すと、替えの弦が見つからず、頭を掻く。
切れていたから買った筈だ。
「…家には無かったんだが…」
せっかく今日は久し振りに弾けると思ったのに…。
しゃーねー…もっかい買いに行くか。
待たせているスタッフに事情を話そうと顔を上げると、スタジオのドアが開いた。
ひょこっという擬音が似合う顔の出し方で登場したのは嶺二だった。
「お疲れちゃんでーっす!ランランってここのスタジオですかーっていたいた!ランラーン、ベースの弦!この前置いてったでしょ?」
「っげ!!」
マジかよ…!!
「もー、ランランったらー、美味しい物食べに来るのは構わないけどー忘れ物はダメでしょーっ♪」
「う、うるせーっ!つか、返せ」
「持ってきてあげたのにー、れいちゃんショボンだよーっ」
ばかばかーっと俺を殴ってくる嶺二にめんどくせーと言って、チョップを一発入れた。
「いった!?もっと先輩敬ってー!!」
「うっせえ、三十路」
「きゃんっ、まだ25だもん!ギリギリセーフだもん!!」
俺達の会話にスタッフ陣が笑う。
「さっさと帰れ。今から仕事だってーの」
「おっと!そうだったねん!はい、頑張ってね、ラーンラン!」
仕事と言えば、こいつがすぐ引くのは分かっている。
“寿嶺二”はそういう先輩であり、アイドルだからだ。
「あ、そうだ!ランラン、今日ステーキ肉を買って帰ろうと思うんだけど、食べたい?」
「…ステーキか…タダなら食ってやる」
俺の言葉にスタッフ陣が更に笑う。
「ふふっ、じゃあランランのお家で作ってあげるよ!楽しみにしててねん、じゃっ」
嶺二は明るく笑って出て行った。
何だかその笑顔には、裏がありそうだったが、考えても仕方ねえと、受け取った弦を取り出した。
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