MASQUERADE

□MASQUERADE
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「腰いった…」
車を運転しながら、無意識に呟くと、隣にいた蘭丸がゴソゴソと音をたてて、目を覚ました。
「大丈夫か?…ごめんな」
「別に…寝ときなよ。着いたら起こしてあげるから」
謝るなんて彼らしくない。
最初はそう思っていた。
しかし、蘭丸と過ごしていくうちに、その印象は一転した。
彼は素直で礼儀正しい。
育ちの良さが垣間見える。
それはきっと皆知っている。
だからこそ、彼には仕事があり、仲間がいる。
でも、その仲間はきっと知らない。
彼の野生的な欲求も、それに悶え、求める荒々しい彼も。
知っているのは、ぼくだけ。
ここまで干渉したのは蘭丸が初めてだ。
浅く広く、それが“寿嶺二”だから。
深入りするな、近寄るなと、避けてきた筈なのに。
身体を繋げている。
「そろそろ…」
離れなければ、と思い、何故か心臓が痛くなった。
「着いたよ、ラーンラーンやーい」
揺さぶると、蘭丸はすぐに目を開いた。
「あんがとな…」
「いいよ、現場近いし。あっ。いってらっしゃいのチューしたげようか??」
ふざけたように言うと、蘭丸は舌打ちをした。
「今キスしたら、怒りでてめえの唇食いちぎるぞ」
「やーんっ、ランランったら〜野生児ーっ」
きゃっきゃと声をあげると、頬を抓られた。
「いだだだだだっ!!ランランっ、超いったいっ!?」
「うっせえ…俺の前でぐらい…ぃや…何でもねえ…」
蘭丸は荒っぽく車から降りて行った。

ドラマの撮影を終えると、隣のスタジオから音也が出てきた。
「あっれー、おとやん。収録?」
「ぇ…あっ、れいちゃん」
一瞬彼の表情が曇った。
こんな顔をされたのは初めてで、眉間に皺が寄りそうになる。
「ん、おとやんどうしたの?」
「えっ、いやなんでもないよ」
「なんでもないって…だっていつものおとやんらしくないy「らしくないのはれいちゃんの方でしょっ!!!」
ぴしゃりと音也の声がぼくの言葉を遮った。
「ぁ…ご、めん」
口を押さえた音也の顔色が悪くなっていく。
「大丈夫大丈夫!でも…らしくない…ってどういうこと?」
「…この前…れいちゃんの歌を目の前で聴いた時…恐かったから…明るい歌なのに真っ暗闇に置いて行かれたみたいで…心が…見えなかったんだ。れいちゃんの」
ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ音也。
指導の頃から音楽の感性が優れていただけある。
ぼくの内側を歌で垣間見たのだ。
ぼくは適当な言葉でその言葉を誤魔化した。
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