最遊記

□不協和音と闇
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景色が歪んでいる。

じくじくと、古傷が疼く。

霞がかった意識と、
酷い耳鳴りで反響する脳。


知らずに詰めていた息を吐く。
自分の手が血で染まっている気がした。


「・・・おい、」


鼓膜を震わせた声。
少し眠たげな掠れ声はひどく自分を安心させた。


彼が手招きをする。
静かに近づくと、彼の胸元に引き込まれて抱き締められる。


少し筋ばって固い掌が
優しく視界を覆った。

「そのまま目ェ、閉じてろ。」

言われた通り、瞼をおろす。
今度は両耳と唇を塞がれた。


クチュ…、と水音が耳骨に響く。
舌で愛撫されて、酸素が薄くなる。
痺れた頭でただ目の前の人の名前を呼んだ。


「ふ…ンッ、・・・さん…ぞ…」
「・・・八戒」


彼の右手が服の下に入り込んで、
指先で傷痕を撫でられる。
皮膚が薄いそこから、ちりちりと焼けつくような疼きが拡がっていく。


「ッ…ぁ…」

鎖骨を吸われる。
骨に沿って窪みに舌が這う。


背中を支えている左手が
背骨を辿って、尾てい骨をなぞる。


ぎゅっと閉じていた瞼にも唇を落とされて、力が抜けていく。


「ん…っ、は・・・三蔵…」

「・・・あぁ」

呼んだ名前に返事が返ってきて、
思わず相手にしがみついた。


自身を直に愛撫される。

「俺のことだけ考えてろ、八戒」

彼の声だけが頭を支配する。
無知の子供のように、彼の名前と意味を為さない言葉だけが口から零れる。


揺さぶられるまま、奥に、奥に。

呼吸も全部、呑み込まれて。

滴る汗にも感じて。


迎えた絶頂と暗転。


***
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