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□レッツ壁ドン!
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≪レッツ壁ドン!≫
〜崇生編〜
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仕事が立て込んで、深夜の帰宅。
日付が変わるギリギリ前にマンションにたどり着いた俺を出迎えてくれたのは、明るい部屋と、笑顔の彼女。
「崇生さん、おかえりなさい。お疲れ様でした」
癒しの効果を持つ彼女の笑顔を一目見ただけで、体にのし掛かる疲労の重みは薄れていく。
「お風呂、お湯ぬるめにしておいたので、ゆっくり入ってきてください。着替えは用意しておきますから、ね?」
「ありがとう…そうさせてもらうよ」
俺の手から鞄を受け取った彼女からの優しい気遣いに、俺は断ることなく頷いた。
彼女の優しさによって、仕事のせいで疲れて固まっていた表情筋がほぐれていく。
革靴に突っ込んでいた足を表に出し、玄関の段差を上がろうとしたとき。
自分で思った以上に体の疲労は蓄積していたらしい。
いつもならありえないのに、ガッ…と爪先が段差に引っ掛かり、体が前のめりに倒れそうになる。
「っと、とと…っ!」
バランスを崩した体を立て直そうと、近くの壁に腕を伸ばしたのだが、そのすぐ傍に彼女がいて。
「え、…えっ、きゃっ!?」
ドン、と大きな音を立てて壁に手を付き体を安定させたのはいいが、彼女をも巻き込んで、彼女を壁際に追い詰めるような体勢になっていた。
「ご、ごめん! どこかぶつけたりしてない?」
「い…いえ、だ…大丈夫です…」
腕を壁についたまま彼女に問うと、至近距離、ちらりと上目使いで答えてくれる。
わざとしたわけじゃないけれど、ふいに訪れた彼女との急接近の時。
近づいたからこそ分かる、ふわりと鼻腔をくすぐる優しい香りに思わずドキリとする。
「あ…あの、崇生さん」
「うん?」
「…い、いつまでこの体勢なんでしょうか……?」
追い詰めて行き場を失わせたこの状態を続けていたことに、退いてほしいという懇願でなく、ただの疑問。
それは、特にやめてほしいわけでもないけど、という意味にも聞こえてしまった。
ほんのり頬を染めている彼女を見ると、あながち俺の都合のいい妄想だけじゃないかもしれない。
俺は退きたくない気持ちが強くなって。
「……うん、もう少しだけ…いや、こうしても…いい?」
壁に追い詰めるだけだった華奢な体を、堪えきれずに腕の中に閉じ込める。
「……崇生さん」
ゆっくりと背中へ回ってきた小さな手が本当に温かくて。
俺も同じようにぎゅっと彼女の体を抱き締める。
疲弊しきった俺の体に、じんわりと彼女の全てが染み込んでいった。
〜崇生編〜END
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