長編 -ツバサ RESERVoir CHRoNiCLE-

□霧の国
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『遅くなってごめんなさい。』

アリシアは精霊達と一緒に小狼達の元へ戻ってきた。

小「お帰りなさい。」

小狼は精霊達に少し驚きながら返事をした。

アリシアは枝と石を上手に組み立てる。

小「あとは火を起こすだけですね。」

『はい、これからが私の出番です。サラディーノ。』

サ〈よしきた!〉

アリシアは薪に手を掲げた。

『闇夜を照らす猛る炎よ、出でよ』

『照火(ヴァレスト)!』


ボォオオ


薪から炎があがり辺りが熱気に包まれた。

小「すごい…。」

『ふふっ、ありがとうございます。じゃあ今度は、わたしがサクラ姫と荷物を見てますね。』

小「はい、お願いします。」

そう言うと小狼は上の服を脱ぎ、ゴーグルをつけて湖の中に飛び込んだ。

アリシアはサクラの隣に腰かけた。

精霊達は湖で遊んでいる。

アリシアはサクラの前髪を撫でた。

『ごめんね、サクラ…。助けられなくて…、辛い目に合わせて…。貴女達の未来はわたしが変えてみせるから。』

アリシアは悲しそうに呟いた。

寝ているサクラに届くはずもない。

『サクラ、貴女は今どんな夢を見ているのかな?』

アリシアは立てた膝の裏に手を通し、顔を膝に埋めた。



―――――



ザバッ


小狼が再び休憩しに陸に上がってきた。

もう3回ほど潜ってきただろう。

2回目に上がった時はファイ達も戻ってきており、先程の果物をみんなで食べながら情報交換をした。

しかしどちらも収穫はなし。

小狼は再び湖に潜り、黒鋼達も再び探索に行ったのだった。

『小狼さん、日が暮れて水温も下がってますから、今日はもうやめた方が…。』

小「でも…。」

アリシアは苦笑した。

小狼なら見つけるまで潜る、と言うだろうと思っていたからだ。

『じゃあ、夜越せるだけの薪を集めてきますね。』

アリシアは再び森に入っていった。

妖精達は遊んで疲れたのか姿はない。

小狼は全身が濡れたまま服を着た。

サ「…?」

サクラが起きたらしい。

目を擦りながら辺りを見回した。

サ「…小狼君。」

小「目が覚めましたか?」

小狼は水を滴らせたまま微笑んだ。

小「アリシアさんは薪を集めに森に、黒鋼さんとファイさんとモコナは、また辺りを探索してくるってついさっき…。」

小狼はマントを羽織りながら説明していると、サクラが小狼の手を取った。

サ「…冷たい。あれからずっと湖に潜ってたの?」

小「休みながらですよ。」

サ「わたしの記憶だから、わたしが行きます。」

小「夜になって水温が下がっています。」

小狼はサクラの言葉をやんわりと返した。

サ「だったら、やっぱりわたしが…。」

小「おれがそうしたいんです。それに今、あなたはまだ記憶の羽根が足りなくて、体調が万全じゃない。湖に潜ってる間に、もしまた眠くなったら…。」

サ「だったらせめて、火にあたって休んで、ね。」

サクラは小狼のマントをぎゅっと掴んだ。

小「…はい。」

小狼はサクラの右隣に腰かけた。

サ「有り難う。わたしの記憶、取り戻してくれて。」

小「…。」

サ「春香がいた国で羽根がわたしの中に戻った時ね、見たの。わたしの国の王である兄様と、神官の雪兎さん。」

サクラの話に黙って耳を傾ける小狼。

サ「桃矢兄様は王子でまだお父様がいらした頃、わたしのお誕生日でね、みんなお祝いしてくれて…。でもひとつだけ誰も座ってない椅子があって、わたしその椅子に向かって話しかけてるの。」

本当はその椅子に座っていたのは小狼。

対価によって消された記憶。

小狼はサクラの話を聞いて、辛そうに眉を寄せた。

サ「不思議ね。誰もいないのにわたし、とても幸せそうなの。」

サクラは目を閉じ、立てた膝に顎を乗せた。

小狼は過去の記憶を手繰り寄せた。
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