長編 -ツバサ RESERVoir CHRoNiCLE-

□紗羅ノ国
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Chapitre.二つの力



降りしきる雨。

雨は地面を濡らし、左足に巻かれた包帯は水分を吸う。

足は靴を履いておらず、地面のゴツゴツ感や水の冷たさが直に伝わる。

手の違和感に見てみると、右手に包帯が巻かれていた。

靴を履いてないことに躊躇いもせず、長い道を歩く。

長い道を歩いていくと街に流れ出た。

長い雨は土をぬかるませ、土が裸足に絡みつく。

視界が歪み、身体が地面に打ち付けられた。

目線が地面に近くなり、転倒したことが分かる。

周りにいる大人は誰も手を貸そうとせず、布で雨を凌ぎながら白い眼を向ける。

手を着き、立ち上がり窓に映る影に視線を向けた。

鏡に映ったのは左目に包帯を巻いた、茶色い髪に琥珀の目をした男の子。

小「…誰……?」

―――

ハッと小狼は目を覚ました。

目の前に映るのは、先程の幼い小狼ではなく心配そうな顔を浮かべるサクラとモコナ。

サ「小狼君…。凄く苦しそうだった、大丈夫?」

サクラ達はどこかの部屋の一室におり、小狼は畳みの床に布を被って眠っていた。

小「昔の夢を見たんです。」

小狼は右目を押さえながら言った。

サ「怖い夢?」

小「いいえ。」

サ「でも、良くない夢だったのね。」

サクラは小狼の表情でそう察し、小狼の頬を両手で包み込んだ。

サクラの優しさが伝わってくる。

小狼はサクラの手を取り微笑んだ。

小「…大丈夫ですよ。」

 (今はもう、自分が誰か分かってるから。例え、あの日より前の記憶がなくても、おれは藤隆(ふじたか)さんが名付けてくれて、皆が呼んでくれたあの日から『小狼』だから。)

小「新しい国に来たんですね。」

小狼が辺りを見回す。

小「黒鋼さんと、ファイさんと、アリシアさんは…。」

周りに3人の人影はいない。

小「!?」

小狼は大きな木の格子の窓から見える景色に驚いた。

小「……こ…ここは一体…。」

ここは沙羅(しゃら)の国。

着物を着た大勢の人達が、和風の建物に挟まれた道を楽しそうに歩いていた。

空は夜なようで真っ黒に染まっており、行く人達を照らそうと沢山の提灯が下げられていた。

空に浮く明かりが不思議な世界観を演出する。


ばん


「「「「「気が付いたのね!」」」」」

勢いよく襖が開かれ入って来たのは沢山の女性。

女性たちはわらわらと小狼達に群がった。

「ずっと動かないから心配してたのよ!」

「こんな子供が遊花区(ゆうかく)へ来るなんて、どうしたの!?」

「それよりこの子可愛いーーー!」

二人の女性が小狼に抱き付く。

「あら、このお嬢さんだって可愛いーーー。」

一人がサクラに抱き付き頬擦りをする。

モ「モコナもー!」

モコナも構われたくて手を上げアピールした。

「きゃー!本当に可愛いー!」

二人の女性とモコナがいちゃいちゃしだした。

‘モコナいつもモテモテ〜’

小狼は雰囲気に流されかけたが、ハッとした。

小「黒鋼さんとファイさんは!?」

サ「いないんです!!」

モ「同じ場所に落ちなかったみたいー。」

そう話すモコナは顔に口紅の跡が付いていた。

小「え!?」

モ「でも同じ世界にはいるよ。そんなに離れてないはず。」

小「それなら探しに…。」

鈴「ちょいとお待ち!」
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