長編 -ツバサ RESERVoir CHRoNiCLE-

□高麗国
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小狼達は春香の家におり、正座をし春香に見つめられていた。

ファイは家に置いてあるものに興味津々で、黒鋼はマガニャンを読んでいる。

モコナは小狼の頭の上だ。

小「あ、あの、ここは…。」

春「私の家だ。」

小「どうして急に…。」

春「おまえ達、言うことはないか?」

唐突な質問。

小「え?え?」

もちろん小狼は疑問符を浮かべるのみ。

春「ないか!?」

さらに問い掛ける春香。

小「おれ達はこの国には来たばかりで、君とも会ったばっかりだし…。」

春「ほんとにないのか!?」

身を乗り出してまで問う。

そんな春香にたじたじになる小狼。

小「ないんだ…け…ど…。」

春「良く考えたら、こんな子供が暗行御吏なわけないな。」

春香は‘はーっ’と項垂れた。

サ「あめんおさ?」

サクラが眠そうに目を擦りながら、聞き慣れない言葉に首を傾げた。

春「暗行御吏はこの国の政府が放った隠密(おんみつ)だ。」

春香が説明してくれる。

春「それぞれの地域を治めている領主達が私利私欲に溺れていないか、圧政を強いてないか、監視する役目を負って諸国を旅している。」

モ「水戸黄門だー!!」

嬉しそうに飛び跳ねたモコナ。

‘侑子は初代の黄門様が一番好きなんだって!’と小狼に説明している。

が、小狼には全く分からないようだ。

春「さっきから思ってたんだけど、なんだそれは!?」

春香はモコナをそれと指差した。

‘なんでまんじゅうがしゃべってるんだ?’と黒鋼のような発言をしている。

モ「モコナはモコナー!!」

ぴょーんと春香に襲い掛かるモコナ。

春香はかなり驚いている。

フ「まぁ、マスコットだと思ってー。」

ファイは適当なことを言った。

フ「オレ達をその暗行御吏だと思ったのかな?えっと…。」

春「春香。」

ファイが困っているのを察し、春香は自分の名を名乗った。

フ「オレはファイ。でこっちが小狼君、こっちがサクラちゃん。」

それぞれ手で示し、各自の名前を教える。

フ「で、そっちが黒ぷー。」

黒「黒鋼だっ!!」

また妙な呼ばれかたをされた黒鋼はいつものように怒鳴った。

フ「で、それからー、あれ?」

小「アリシアさんがいませんね。」

アリシアがいないことに今更気付いた小狼達。

小「探しに行かないと!」

フ「んー、大丈夫だと思うよー。」

何処にそんな根拠があるのか、へらっと笑いながら言った。

フ「つまりその暗行御吏が来て欲しいくらい、ここの領主は良くないヤツなのかな?」

そのまま話を続けるファイ。

それほどアリシアを認めているようだ。

春「最低だ!それにあいつ、母さんを…。」


ゴオオォォ


ギシギシ


フ「風の音?」

春「外に出ちゃだめだ!!」


バターン


春香がそう言うと同時に窓が開いた。

ゴオオォォと大きな音を立てながら、竜巻が家を襲う。

それぞれ飛ばされないよう踏ん張る。

『風よ、鎮まりたまえ!』

凛とした声が響き渡ると、竜巻はふっと収まった。

屋根には大きな穴が開いてしまった。

『皆さん、大丈夫ですか?』

フ「自然の風じゃないよね、今の。」

『はい。』

二人は穴の開いた屋根を見上げた。

空は真っ青だ。

春「領主だ!」

春香がギリと歯を噛み締める。

春「あいつがやったんだ!!」



―――――



その頃蓮姫の城では…。

領主、タンバルが術を使い、春香の家に竜巻を起こしていた。

ブ「やったか!親父!!」

息子、ブルガルがタンバルに歩み寄った。

タ「ああ。」

ブ「蓮姫の領主の秘術を思い知ったか!」

 「しかしこいつらは何者だろう、親父。まさか本当に暗行御吏か!?」

ブルガルは仕返しが出来たことに喜び、次は心配している。

タ「たとえ暗行御吏だとしても、これがある限りわしは無敵だ。」

タンバルがこれと示すものは、丸い玉の中で輝くサクラの羽根だった。
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