木綿豆腐
□お姫様
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甘党なお姫様
「もっと持ってきてちょうだい!!」
何故か食堂に、可愛らしくそしてまだ幼さの残る声が響きました。
それもそのはず。
その声の主はまだ10歳の女の子。
容姿は整っていて、その声にピッタリです。
そんな彼女の可愛さを余計に引き立てているのは、ケーキにも似た可愛らしいフリフリのドレス。
モチーフはイチゴのショートケーキ。
彼女の大好物です。
「姫様。今日のおやつはこのくらいにしておけと王様に……」
「いいじゃない料理長!それに私がこんなにケーキを欲しているのは、貴方が作ったせいよ!!だって、貴方の作るモノ全部が美味しいんですもの!!!」
「……お褒めにあずかり、光栄でございます姫様」
と言って、料理長と呼ばれた男は膝をついてお辞儀をしました。
顔は、どこか疲れているようにも見えます。
頬は少しこけていて、顔色もよくありません。
ですが、姫様がそれを気にしていないところを見ると、それが普段からの彼なのでしょう。
「その言葉は何度も聞いたわ!それに、本当に光栄だなんて思っていないでしょう?だって私は、まだ幼い小娘。そして料理長、貴方はまだ若いとはいえ私よりも二倍は生きている。この城にいるのも私の為でも両親の為でもない、自分の為。そうでしょう?」
「姫様のおっしゃっていることは世間一般的には間違いではございません。ですが私は、姫様が"私専属の料理人になりなさい"とおっしゃったのでこの城に使え、そして流れでしょうがなく料理長をしているのです。姫様が辞めろと言うのであれば、私はすぐにでもこの城を出ます。決して、自分の為ではないのです」
料理長は、姫様を真っ直ぐに見つめています。
その目を、姫様も見つめ返しました。
沈黙。
食堂は静寂に包まれました。
食堂の壁周りに立っている兵士達は、姫様と料理長の様子を見て少し焦っているようですが、それを表に出すことはありません。
表に出す必要がないからです。
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