奇奇怪怪

□Prequel
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どんよりとした黒い雲。

太陽が隠れ、辺りの木々も息を潜めるように陰っていく。


ザッ、ザッ。

ザリザリと音を鳴らして乾いた土を踏み歩くは4つの足。



それぞれの種類、それぞれの色の重そうな鞄を担ぐ2人は目の前にある建物を見上げた。



トントン、と。

爪先を打ち付けて靴についた土を落としながら1人の少女が声を上げる。



未来「いやぁ、長かった。よーやっと着いたな」


泰雅「見た感じ・・・普通の学校っていうか、廃校だな」


未来「あぁ。当時は通学が大変だっただろーな」


泰雅「そうだな。誰かさんと同じで片道1時間はかかってたかもな」


未来「正確には1時間23分だし。勿論、電車とバスに遅れなきゃな」


泰雅「いつもお疲れ。・・・にしても、校庭とか体育館とかプールはないんだな」


未来「必要なかったんだろ」



廃校の後ろには山が迫り、山から溢れた雑木林が廃校の周りを侵食している。

いかにも見捨てられた土地だ。


斜面を切り開いて建てられたらしい校舎は、コの字型の3階建て。

長い間使われていないというのに窓ガラスは綺麗で1枚も割れていない。見るからに、当時のままを保っている。



泰雅「どう思う?」


未来「どうって?」


泰雅「何か感じたりするか?」


未来「さぁ?けどまぁ、見た感じ異常がねぇってことが異常だよな」


泰雅「確かに」


未来「とりあえず外周ぐるっと回ってみるか」


泰雅「さすがに用心深いな」


未来「そりゃフツーの廃校じゃねぇからな」



2人は正面玄関から反時計回りに校舎に沿って歩き始める。


端まで辿り着き、校舎の裏手へ。

そこで立ち止まった未来が徐に地面から石を拾い上げ、近くの窓に向かって投げた。



泰雅「ピッチャー、振り被って投げましたっ。これはボールです」


未来「むっ、」



彼女が投げた石は目的とする窓から大きく外れ、校舎の壁に当たって地面に落ちた。

未来は再び手近にあった石を持つ。



泰雅「ナイスノーコン」


未来「っるせぇ」


泰雅「次の2球目はどうか。―――ボール」


未来「ぬぅ・・・」


泰雅「3球目に注目しましょう。投げました―――が、これもボール。これは苦しい。追い詰められました、ボール3つです」


未来「ふぬぅっー!」



手に持った石をそんな声を上げながら彼女は地面に叩き付けた。

笑いながら見ていた泰雅がその石を拾い上げる。



泰雅「拗ねるな、拗ねるな。あの窓を割ればいいんだろ?」


未来「チッ」


泰雅「舌打ちは相槌にはならないからな」



軽くそうやって窘めながら振り被る。

彼の投げた石は真っ直ぐ窓ガラスを割り抜いた。



泰雅「ストラーイク。良い子はマネしないでねっと」


未来「後、2階と3階の窓も割っといて」


泰雅「そんな悪い子にはなりたくないんだけどなぁ・・・」


未来「いいから。その間俺、木上ってロープ仕掛けてくるから」


泰雅「うん?」



どういうことだ?と視線を向ければ、未来は少し大きめの石に鞄から出したロープを縛り付けていた。

鞄を泰雅の傍に置いて、彼女はコテージから拝借してきた鉈を腰につける。そしてそのままロープを腕に担いで近くの木に上り始めた。


気を付けろよー、と下から言ってくる泰雅の声に頷きつつ、すいすい上へ。

丁度、校舎の2階と同じ高さに到達したところで彼女はロープを手繰り寄せ、先程縛り付けた石を自分の元へ運んだ。


言われた通り2階と3階の窓を割り終えた泰雅が、下から何をするのだろうと見上げる。



未来「泰雅、ちょっと離れとけ」


泰雅「おい、まさかお前・・・」



彼女が何をしようとしているのか予想出来たのかもしれない。

顔を引き攣らせ、彼は校舎と彼女がいる木から離れる。


それを確認した未来はロープで縛りつけた石を両手で持ち、下から掬い上げるように2階の窓に向かって投げた。

音を立てて割れる窓ガラス。


未来は先程の石に繋がっているロープを鉈で少し長めに切り、自身がいる木の幹に括りつけてから下に降りてくる。



泰雅「窓割ったり、ロープを渡したりして・・・何になるんだ?」


未来「意味はねぇよ。ただ、何かの役に立てばいいなと思ってやっただけ」


泰雅「(こいつのことだから意地でも役に立たせようとするな・・・)」



再び歩き出す2人。

途中にあった職員玄関のガラス扉から中を覗いたが、見えるのは誰もいない薄暗い廊下だけだった。


校舎の東側から次は北側に進む。

少し進んだところの壁に外に出っ張る形の玄関のようなものがあった。



泰雅「渡り廊下の跡・・・か?」


未来「みてぇだな。頑丈に塞がれてる。多分、内側もこうなってんだろ」



板で完全に覆われた出入り口。

その板には黒く汚れた紙切れが貼りついていた。



泰雅「なぁ、コレ・・・」


未来「あぁ。お札だろーな」


泰雅「うーわ・・・。中にナニカいるのは確実ってわけか。

・・・・ん?けど、何で昇降口と職員玄関は塞がれてなかったんだ?」


未来「開けたんだろ。中にいる―――ナニカがな」


泰雅「・・・俺達、この後ここに入るんだよな?」


未来「怖かったらコテージに戻っていいぞ。アイツ等と合流して外から分析してくれ。その方が安全だ」


泰雅「お前は安全じゃない中に1人で入るっていうのか?」


未来「じゃなきゃいつまで経っても終わんねぇだろ」


泰雅「、そうだな・・・」



歩き始める未来は既に覚悟を決めているのか、その歩調に何の迷いもなかった。

その後をついて歩きながら、泰雅は小さく息を吐いた。



校舎の西側に近くなってくると、先程と同じ渡り廊下の跡が出現した。

西側、東側、両方から体育館かどこかに通じる廊下が伸びていたのだろう。しかし、その渡り廊下の跡もやはり板で塞がれ、黒い紙切れが貼りつけられていた。


2人は立ち止まることなくそのまま校舎の西側へ。

東側でした通り、未来はまたロープで縛った石を木を上って2階の窓に放り込んだ。

その間に泰雅も同じように1階、2階、3階の窓ガラスを割っていく。


同じ作業を終え、2人はようやく外周をぐるりと1周した。



未来「・・・風が強くなってきたな」



太陽を覆っていた雲が厚くなり、風に濡れた空気が混じり始めていた。

山の頂上の方はここよりも暗くなっている。



泰雅「これは降るな・・・」


未来「さっさと下山した方がいいぞ」


泰雅「いやいや、中に入った方が雨に打たれないだろ」


未来「いいのか?どうなるかも分かんねぇし、何がいるかも分からねぇ危険な未知の場所だぞ?」


泰雅「ここで下山しても俺は絶対心配になって引き返してくるよ」


未来「だろうな」



彼の性格をよく知っている彼女はそこでフッ、と笑う。

2人は揃って重い鞄を担ぎ直し、昇降口へ向かった。


右腕につけている腕時計を未来が確認する。



未来「10時42分。準備はいいな?ここを開けたら、きっともぅ後戻りは出来ねぇぜ?」


泰雅「上等」


未来「そいじゃ、行きますか。幽霊学校」



そう意気込んで。

彼女達は昇降口のガラスドアを開けた。










この2人の参入が長い永い悲しい物語に何の影響を及ぼすのか。









それを知る者はまだ誰もいない―――・・・









To be continued...

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