奇奇怪怪

□向こう側
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ハッ、と。

竹森健矢はそこで意識を覚醒させた。


土砂降りの雨。

晴れ間ならば見事な新緑を輝かせるであろう周りの木々も、この雨の中では酷く淀んで見える。



健矢「(え・・・?あれ?俺・・・・)」



ここに至るまでの記憶がハッキリしない。

混乱する彼の近くで、1人の少女が吼えた。



瑠璃「あーもーっ、最っ悪!」


紗那「林間学校初日で雨に降られるなんてね〜」



健矢「!」



え、と。

そこで彼は顔を上げた。


今の会話には驚くほど聞き覚えがある。



くるみ「ちょっと誰ー?雨男、もしくは雨女ー」


慎司「まぁ、山の天気は変わり易いって言うし。仕方ないんじゃない?」



続く会話にも聞き覚えがある。

何故ならそれは、全く同じ会話を1度聞いていたから。全く同じ会話に1度自分も加わっていたから。



健矢「(どういうことだ・・・?また誰かが、時間を巻き戻した・・・・?)」



一緒にいるメンバーを見る。

今回も、前の世界と同じで自分は瑠璃、紗那、くるみ、慎司、悠香、和則の6人と一緒に雨宿りをしていた。



健矢「(今度は誰が・・・)」



思考に耽る彼を余所に皆の全く同じ会話が続く。



悠香「・・・・・・もしかすると、

昨日、うちが家でした雨乞いが原因かも―――」


瑠璃「吊るせ、そいつ!今すぐに!」


和則「イェッサー!」


悠香「Σうぇぇっ!?」


くるみ「軒下に吊るせば晴れるね、絶対」



健矢「(あ・・・)」



この後に、自分が言った台詞を思い出す。

疑問や戸惑いを胸中に隠し、健矢は笑顔を作った。そしてそのまま、同じ台詞を繰り返す。



健矢「てるてる坊主〜てる坊主〜あ〜した天気にしておくれ〜(笑」


紗那「それでも曇って泣いたなら〜(笑」


健矢・紗那「「そなたの首をチョンと切るぞ〜」」


悠香「ちょっ、怖い怖い怖いっ!ごめんって!林間学校潰れろドチクショー!とか・・・昨日のうちはうちじゃなかったんだよ」


瑠璃「いや、それがいつものお前だよ。むしろそうじゃないお前を見たことがないよ、この7年間」


健矢「(次に言う言葉は確か・・・)」


紗那「でも・・・どうするの?この雨じゃ登山なんてもう出来ないよ」


健矢「皆どうしてるんだろーな。今で・・・中腹?ぐらいだったし。途中に山小屋とかあったっけ?」


くるみ「先生が下山させてるか・・・勢いで登ってるか、じゃない?」


健矢「登山コースまでの帰り道分かる人ー?」



と、挙手をするように促せば、一様に視線を背ける幼馴染達。



健矢「(そう・・・誰も帰り道なんて分からない)」


健矢「・・・慎司、」


慎司「僕、カメラ守るのに必死だったから」


健矢「くるみ、」


くるみ「うちは遅れる悠香を引っ張るので必死だったから」


健矢「フッ・・・














華澄ーーー!楓ーーー!朱里ーーー!拓篤ーーー!迎えに来てくれーーーっ!!










健矢「(叫んだって意味がない・・・)」



瑠璃「おい、何でうち等には聞かない?」


和則「ヒーキだ、ヒーキ」


健矢「お前等みたいな成績平均組が道なんか憶えてるはずないだろ!?」



健矢「(憶えてるのは俺だけ・・・?)」



瑠璃「言いやがった、こいつ!」


和則「吊るせ、吊るせ!てるてる坊主の刑だ!」


健矢「止めろ!俺がここで死ねば世界は大きな損失を受ける!」



健矢「(じゃあ、時間を巻き戻したのは拓篤達4人の中の誰かか・・・?)」



瑠璃「悠香共々吊るせ!」


悠香「あれ!?うち、まだ許されてないの!?」


紗那「逆に、成績上位組の健矢が何で道分かんないの?」


健矢「それはっ・・・」



健矢「(何だっけ・・・?次に言う言葉は、確か・・・確か・・・・)」



紗那「それは?」


慎司「石蹴りに夢中だったからだよね。この石が落ちれば死ぬ、草むらに入れば罠にかかるとか言って、」


瑠璃「小学生かっ!」


健矢「小学生だわ!」


和則「健矢、健矢。で、その石は?」


慎司「見事、ここに来る途中に水溜りの中に蹴飛ばしてたね」


健矢「ぐっ・・・息がっ・・・・!」


瑠璃・紗那・和則・悠香「「「「(溺死っ・・・!)」」」」


慎司「これが実際の写真です(笑」



前回と同じように、慎司はポラロイドカメラで撮った3枚の写真を掲げる。

そこには石を蹴る健矢、その石が木にぶつかって跳ね返る瞬間、その後に水溜りに入る瞬間がバッチリ写されていた。



瑠璃「お前カメラ守ってた割には余裕だな!」


慎司「うんうん、僕って凄いよね。この雨の中、ここまで綺麗に撮れるなんて」


瑠璃「Σまさかの自画自賛!?」


悠香「あぁ〜あ・・・こんなことだったらうちも未来と泰雅みたいにバスで酔っとけば良かったな〜。そしたらペンションのベッドで休めたのに」


くるみ「アハハ・・・そうだね」



健矢「、」
健矢「(また・・・早い段階で俺達は失敗したのか)」



紗那「あの2人も酔いたくて酔ったわけじゃないんだけどね〜。弱過ぎる三半規管の問題だもん」


瑠璃「泰雅に至っては酔い止め持って来てたのにそれを飲み忘れたバカだからね」


慎司「そんな酔った2人の写真がここに」


紗那「色々撮ってるね、慎司」


慎司「思い出作りだよ、思い出作り。主に人が思い出したくないようなね(笑」


瑠璃「相変わらず最低だな、こいつ」



健矢「(嫌だ・・・言いたくない)」



健矢「それよりどうする、これから?」


和則「お、健矢復活」


紗那「誰も帰り道憶えてないんじゃね〜」


瑠璃「闇雲に動いても迷子・・・っていうか遭難?するだけだしね」


健矢「迎えを待つか、道が見え易くなってから進むかだな」


くるみ「どっちにしろ待たないとね。雨が止むまでは向こうも、こっちも動けないし」


慎司「あ、それならさぁ」


他一同「?」


慎司「時間つぶしにこの中・・・探検してみない?」


悠香「え、この中って・・・」


慎司「うん。この・・・















―――廃校の中」












他一同「!」


和則「おっ・・・」


和則・健矢「「面白そう!!(目キラキラ」」



健矢「(全然面白くないんだ・・・)」



瑠璃「はい、バカ2名釣れましたー」


紗那「ヤ、ヤダ!廃校って響きだけで既に怖いのに!中に入るなんて無理!怖過ぎるよ!私、無理!ヤダ!」


くるみ「うちも・・・遠慮したいかな〜、なんて・・・・(苦笑」


慎司「でも多少の雨風は凌げるよ?」


瑠璃「確かに、ここにこのままいたら風邪ひくだけだよね・・・」


紗那「えぇ・・・ちょっと、瑠璃」


悠香「探検じゃなくて、うちはとりあえず中で濡れた靴下履き替えたいかも。さっきから足の指の感覚ないんだよね。皆もそうでしょ?」


紗那「それはそうだけどぉ・・・」


和則「―――ハッ!このままだと全員水虫に・・・!?」


瑠璃「なくはないだろうけど止めて、その想像」



健矢「(嫌だ・・・!)」



健矢「行くぞ、お前等ぁ!廃校探検だ!!」



健矢「(また繰り返すのは嫌だ・・・!)」



和則・慎司「「おー!」」


悠香「ノリノリだね・・・」



健矢「(思い出せ・・・!前の世界では何が起こった?俺はどこで死んだ?)」



切羽詰まった顔。

それを見られないように、彼は先頭を歩く。



健矢「(早く思い出さないと・・・また繰り返しちまう・・・・!)」



もう誰も失いたくない、と。

もう繰り返したくない、と。心が叫ぶ。













―――これは彼等、彼女達の物語。


林間学校1日目、土砂降りのこの雨の日から始まる長い長い悲しい繰り返しの物語―――・・・








To be continued...

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