奇奇怪怪

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この廃校の中に入って来る時、自分達は間違いなくカッパを脱ぎ、濡れた靴を履き替えて置いておいた。

下駄箱にしまったりなんて誰もしていない。


だというのに誰の靴も、誰のカッパも見当たらない。

「何でなくなってるの!?」と言った瑠璃の隣で悠香が思案気に呟く。



悠香「やっぱり・・・うち等、別の次元に攫われた・・・・ううん、迷い込まされたんじゃないかな」


瑠璃「幽霊に、って?」


悠香「うん」


紗那「えぇ〜・・・」


瑠璃「何の為に?」


悠香「それは幽霊じゃないから分からないよ。でも、ホラー映画とかだったらこういう場合・・・外に出られなかったりするよね」


瑠璃・紗那「「・・・・・・」」



3人揃って上履きのまま土間に下りる。

そのままガラスドアの前に行き、瑠璃がドアを開けようと力を入れる。だが、



瑠璃「開かない・・・」


悠香「引いてダメなら押してみるとか」



全体重をかけて瑠璃がガラスドアを押す。しかし、



瑠璃「開かない」


紗那「た、叩き割ってみるとか・・・」



全力の横蹴りを瑠璃がガラスドアにお見舞いする。だがしかし、やはり・・・



瑠璃「開かない!」


紗那「そんな〜・・・(泣」


悠香「マジかー・・・」


瑠璃「悠香、言霊って知ってる?」


悠香「人のせい、よくない」


紗那「開けゴマ!とかいう暗号で開くドアだったり・・・」


瑠璃・悠香「「紗那」」


紗那「しないよね・・・やっぱり」


悠香「現実逃避もよくないよ」


紗那「あっ!窓は?窓から出られない?」


瑠璃「入り口でこれだから望みは薄そうだけど・・・。まぁ、やるだけやってみよっか」



廊下の窓で試そうとしたのかもしれない。

彼女は土間から再び廊下に上が―――ろうとして、右の視界の端に黒いモノを捉えた。視えた瞬間、悪寒がした。


すぐさま引き返し、瑠璃は後ろから続こうとしていた紗那と悠香の手を取る。



紗那「え、何?どうしたの?」


瑠璃「しっ。静かに」


紗那・悠香「「?」」



瑠璃はそのまま2人の手を引いて下駄箱の影に隠れる。

彼女のその行動とどこか焦ったような雰囲気で、紗那と悠香はこれはただ事ではないぞ、と察した。


息を潜める瑠璃に倣い、2人は空いた手で自分の口を押えた。


耳を澄まし、感覚を研ぎ澄ますと何かの気配がこちらに向かって近付いてくるのが分かった。



紗那「(そういえば・・・さっきの校内放送・・・・。宿直室に不審者が出たって・・・)」



まさかその不審者か、と下駄箱の影から廊下を覗き込む。

今正にソレが柱時計の前を通過していた。


人の形を模した黒いナニカ、としか紗那には判断出来なかった。



ゆっくりと廊下を進んでいたソレが急に方向転換をする。

昇降口のガラスドアに向かって。



紗那「!」


瑠璃「(ヤバッ。バレた・・・!?)」



気配が近付いてくる。



悠香「(2人共、こっち)」



心の中でそう言って、悠香が2人を下駄箱の裏に引っ張る。

向こうが近付いてくるのなら、それに合わせてこちらも見えないように隠れながら移動すればいいだけだ。


息を潜め、足音を殺しながら3人は進む。


黒いナニカがガラスドアの前に辿り着いた。

数秒、そこで棒立ちのようになっていたソレだったが、次の瞬間―――





  ばしんっ!!





両手と思わしきものを力一杯ガラスドアに叩き付けた。



瑠璃・紗那・悠香「「「!?」」」



その行為は何度も続けられる。

だがガラスドアにはヒビの1つも入らない。


黒いナニカはそれでも両手を叩き付ける。今度はその両手と共に頭と思わしき部分を叩き付けた。


その異様な光景に紗那達3人は逃げることも忘れて戦慄する。



悠香「(出たがってるんだ・・・。“アレ”も、出たがってるんだ・・・・)」



彼女にはまるで、その黒いモノがここから出してくれ、と懇願する大人のように見えた。

これ以上続けても開かないと悟ったのかもしれない。両手と頭を叩き付けていたソレの動きが止まる。





“バツ・・・バツ、バツ・・・・バツ・・・!”






紗那「っ、」



出そうになった悲鳴を必死に抑え込んだことで喉の奥が引き攣った。

恐怖で身が竦む。


逃げようと、逃げたいと思うのに、足が思うように動いてくれない。


彼女の手を握っている瑠璃も同じだった。

あの黒いモノの一挙一動から目が離せない。目を離したら良くないことが起こるのではないかと思ってその場から動けない。




だから、




そこで2人を引っ張ったのは、もう1人の少女だった。



紗那「!」


瑠璃「(悠香・・・!?)」


悠香「走るよ、2人共



2人にしか聞こえない声でそう言った彼女が小声でカウントを取り始める。



悠香「3・・・2・・・1・・・―――今っ!」



それにつられて瑠璃と紗那も走り出す。

下駄箱の影から廊下に出て、校舎の東側に向かって行く。


黒いナニカに気付かれただろうか?黒いナニカは追いかけてきているのだろうか?

そんな疑問が頭に浮かんだが、振り返る勇気はなかった。ただひたすらに、3人で廊下を駆けた。



瑠璃「階段!階段上ろう!」


紗那「う、うん!」


悠香「分かった」



東側にあった階段を1段飛ばしで駆け上がる。

踊り場を超えて2階へ。



紗那「どうするの?上?左?前?」


瑠璃・悠香「「前!」」



3階まで駆け上がるとなると体力的にきつい。どこまで追いかけられるか分からない今、体力を無駄に消耗すべきではない。

左、東廊下にもし非常口があったとしても、外に出られないのでは待っているものは行き止まりだけ。


ならばまだ逃げられる選択肢のある前を進んだ方がいい。そう一瞬で判断した2人が紗那を連れて2階の廊下を進む。



瑠璃「このままどこかに隠れてやり過ごそう」


悠香「賛成」


紗那「ま、任せるね」



3年、4年の教室を超え、西側廊下まで進んだ彼女達は、近くにあった女子更衣室に避難した。



瑠璃「鍵っ」


悠香「うん、」



最後に入った悠香がドアを閉め、すぐに内側から鍵をかける。

そこでようやく3人は大きく息を吐き出した。


上下する肩。全力疾走をしたのだから無理もない。


升目のロッカーにもたれながら、息を切らした瑠璃が口を開く。



瑠璃「っ、何だったの・・・アレ、」


悠香「黒かったね」


紗那「怖くてまともに見られなかったよ〜・・・」


悠香「リアルカオナシ・・・?」


瑠璃「いや、カオナシより人間っぽいフォルムだったでしょ」


悠香「青蛙とか兄役みたいにうち等も呑み込まれる・・・?

どうしよう、瑠璃ちゃん!千を探さないと!千の苦団子がないと吐き出してもらえないよ!」


瑠璃「お前は1度頭から呑み込まれてこい


悠香「Σ酷っ!」


瑠璃「ってか、状況分かってる?」


悠香「分かった上での現実逃避だよ。これは夢。絶対そう」


紗那「本当?夢なの?誰の夢?私?」


瑠璃「いい加減にしないとぶっ飛ばすよ、お前等」



休憩も兼ねて彼女達3人は床に座り込む。

鞄から各々水筒を取り出し、水分を補給する。



瑠璃「とりあえず、整理しよう」



頷く悠香と紗那。


彼女達はまだ知らない。

この廃校で起こる摩訶不思議な出来事を。



そして、



この廃校に何がいるのかを―――







彼女達はまだ、何も知らない。












To be continued...
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