奇奇怪怪

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校内に響いた甲高く不気味な放送。

弾かれたように顔を上げたくるみが絶望的な顔をする。



くるみ「ウソ・・・」


拓篤「チッ、またか」






≪校長先生、校長先生、大キナ箱ガ届キマシタ。至急、2−2教室マデオ越シ下サイ。繰リ返シマス、至急、2−2教室マデオ越シ下サイ≫






朱里「!2−2って・・・」


楓「すぐそこじゃんか・・・!」


くるみ「逃げよう!とりあえず今は2階に!」


朱里「拓篤!」


拓篤「分かってるよ・・・」



東側廊下、そちらにある階段に向かって4人は走り出す。

1番後ろを走る拓篤が2−2の教室の方を振り返れば、あの黒いナニカが教室からぬっ、と出て来るのが見えた。


アレは、先程自分達を襲ってきたモノと同じモノなのだろうか。

そんなことを考えながら走っていると・・・











―――急に床から手が生えた。











拓篤「は・・・」



真っ白なその手に踏み出そうとした足を掴まれ、拓篤は前に倒れ込んでしまった。



拓篤「うっ・・・」



朱里「拓篤!?」


楓「大丈夫か!?」


くるみ「足、もつれちゃったとか?」



拓篤「違ぇよ・・・!手だ」



朱里「手?」



拓篤は両手を床につき、腕に力を入れて起き上がる。

そのまま自分の足に視線を向けようとした時だった。


青白い何本もの手が拓篤の周りの床から一斉に生えた。

揺らめくそれらはまるでイソギンチャクのよう。


そのたくさんの手が拓篤の体に纏わりつく。蜘蛛の糸を掴むように、藁にも縋るように―――・・・






“タ・・・ス、ケテ・・・・”






拓篤「!?」



絡みつく手を振り払おうともがく彼の頭に直接、そんな声が響いた。

子供の声だ、と瞬間的に思った。


このいくつもの手にしたってそうだ。大人の手は1本もない。



彼の体を覆い尽くす勢いで次から次へと床から手が生えてくる。



朱里「今助け―――」







拓篤「―――来るなっ!!」







朱里「えっ・・・!?」



鞄から包丁を取り出し、駆け付けようとする朱里と、引き返そうとしてきたくるみ、楓の3人を拓篤がその一言で制した。

こうしている間にも黒いナニカがじりじりと近付いてきている。


自分を気にかけている場合ではない、と拓篤は思った。いくら朱里とくるみが戦えるとは言え、自分のように足を取られたらおしまいだ。

だから彼は、くるみに向けてこう言った。



拓篤「時間が狂ってるって言ったよな?」



くるみ「今そんなこと言ってる場合じゃ・・・!」



拓篤「お前等、よく憶えとけ。線が1本の2時24分だ」



くるみ「!」


楓「!まさか、お前・・・」



拓篤「死なずに待っててやるよ」



楓「っ・・・馬鹿野郎・・・・!」


くるみ「・・・分かった。絶対、絶対繋げる・・・・!」



彼の言わんとする意味が分かったのだろう。

楓とくるみは、朱里の手を引いて階段へ向かって走って行く。


何も理解していない朱里だけが目を見開き、驚きと戸惑いの表情を浮かべていた。



朱里「ちょっと待って。まだ拓篤が―――!」


楓「いいんだ」


朱里「良くないよ!後ろにあの黒いのだって来てるのに!このままじゃ拓篤は・・・!!」


楓「もうこれしか全員が生き残る方法はないんだ!」


朱里「!?」


くるみ「うち等は見捨てる気も、見殺しにする気もないよ。拓篤だって殺される気も死ぬつもりもない」


朱里「でも、今・・・!」


くるみ「詳しいことは後で説明する。だから今は信じて、朱里」


朱里「・・・拓篤を助けられるの?」


楓「ああ、きっと」


朱里「・・・なら、分かった。納得出来ないけど納得する」



昇降口の廊下に置いてきた彼を最後に一目見ようとして、彼女はそこで振り返るのを止めた。

彼なら大丈夫だ、と必死で自分に言い聞かせる。



朱里「信じるよ、2人のこと」


楓「ああ」


くるみ「ありがとう」








東側の階段を駆け上がって行く3人。

それを最後まで見送っていた拓篤が口角を上げる。


体中には未だ手が纏わりつき、今にも床に沈みそうだ。





“タスケテ・・・”






また声が響く。

痛い、怖いと泣き叫ぶ子供達の声が直接脳に伝わってくる。



拓篤「っ・・・」



それが伝染したように、彼も辛く、悲しい気持ちになってきた。

助けてと懇願する手。自分はこの手を取るべきなのか、反対に振り払うべきなのか―――判断に迷う。


迷っている間に、あの黒いモノがすぐ傍までやって来ていた。

手を思わせる部分。そこに握られている1本の包丁が振り上げられる。



拓篤「ハッ・・・こりゃ、絶望的だな」



振り上げられた凶器が、無慈悲に床に這いつくばる拓篤に振り下ろされる。





  ぐしゃっ!!





と、生肉に刃物が突き刺さる低く、嫌な音が鳴った。

瞬間、床に液体が流れ落ちる。








“・・・ツミ、ヲ・・・・・!”









絞り出されたその言葉は誰のものなのか。

拓篤には、最後まで分からなかった。



2時24分を指し示す柱時計だけが、その惨劇を目撃していた。













――――――
――――――――――
――――――――――――――












「うっ・・・」



1人の少女は、そこで目を覚ました。


自分の体にかけられているバスタオルを見た後に辺りを見回す。




いくつものロッカー。

そうだ、ここは2階の女子更衣室だった、とぼんやりとした思考の中で考える。




ならば彼女達がいるはずだ。






1人の少女―――東雲瑠璃は、その者達の名前を口にする。







瑠璃「悠香・・・?紗那・・・・?」












To be continued...
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