奇奇怪怪

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くるみ「ハァ・・・ハァ・・・・」


和則「ッフー・・・」



がむしゃらに走って、走って、階段を下りて。

そうしてやっとくるみが足を止めたのは、十数分前にいた2階の廊下だった。


両膝に手を付いて2人はしばらく肩で息をしていた。



和則「何・・・だったんだ・・・・あれ」



どっ、と噴き出してきた冷や汗を肩で拭いながら切れ切れに言う。



くるみ「わ、からない・・・。でも・・・・あれは、きっと・・・良くない、ものだよ・・・・」


和則「アレが・・・俺達を閉じ込めてる・・・・?」


くるみ「それも・・・分からない」



和則は息を整える。

そのまま身を起こそうとした時、ポケットに手が当たった。そこに入れていた物を思い出す。



和則「(コレ・・・)」



今の今までどうして忘れていたのだろう。

最も重要なアイテムだったのに。



和則「くるみ・・・コレ、聞いてみるか?」


くるみ「?・・・あ、それって朱里の・・・・」



和則がポケットから取り出したのは、2−1教室で見付けた朱里のボイスレコーダーだった。



和則「あいつが・・・あいつ等が本当に俺達より先にここに来てた、って言うなら、朱里のことだ。何か録音してるに決まってる」


くるみ「ハハ・・・そうだね」



和則は辺りを見回す。

先程のナニカや人影は追って来ていない。


ボイスレコーダーの録音を落ち着いてゆっくり聞くために、2人は手近の教室、4−2教室に入った。

揃って鞄から水筒を取り出し、喉を潤す。



和則「えーっと・・・どこが再生ボタンだ?」


くるみ「その前に電源じゃない?」


和則「あ、そっか」



横についている電源スイッチをスライドさせ、電源を入れる。

小さな画面に001という番号と、録音したものの時間を表す00:40という数字が表示される。


PLAYボタンを見付けた和則は親指でソレを押す。

ボイスレコーダーから聞こえてきたのは、2人がよく知っている声―――紛れもない朱里の声だった。



朱里『♯1.廃校探検。我々4人の探検隊は今、雨宿りの最中に見付けた廃校の中を進んでいます。

廃校になった後も使われていたのでしょうか。校舎の中には埃の1つも積もっていません。その割に、昇降口正面の柱時計は壊れて動かないまま・・・。

雨が止むまで探検を続けてみましょう。♯2へ続く』



そこで再生は終わり、画面は001の00:00という表示に変わる。



くるみ「まだ続きありそう?」


和則「ああ。とりあえず辺りに注意しながら全部再生してみるか」


くるみ「うん」



ボタンを操作し、和則は002の録音を再生させる。



朱里『♯2.2−1教室にて。1−2、1−1教室と順に回り、探検を続けた我々が次に辿り着いたのは2−1教室。この教室は、今までの2つの教室と明らかに違いました』



くるみ「!あの正の字の教室だ」



朱里『黒板に記されているのは画線法でしょうか。赤いチョークで正の字が1つと・・・正の字の4画目まで書かれた線が存在します』



くるみ・和則「「!?」」



2人はそこで驚いたように顔を見合わせる。

どういうことだ、と視線で告げ合う。そうしている間にも録音されている朱里の言葉は続いた。



朱里『これは・・・一体、何を示しているのでしょうか。我々と似たような子供達の悪戯?何かの多数決の結果?

これを見て、どこか悲しい気持ちになるのは・・・何故なのでしょう。♯3へ続く』



再生が終わった途端、くるみが和則に尋ねた。



くるみ「うち等が見た正の字の数、憶えてる?」


和則「あぁ、12だった・・・。でも、朱里達の時は9だった・・・・?ってことは、」


くるみ「誰かが3本書き足した、ってことだよね。この後の朱里達がやったのかな・・・」


くるみ「(それとも、)」


和則「続き・・・聞いてみるか」



003の録音を選択し、PLAYボタンを押して再生させる。



朱里『♯3.柱時計の謎。1階の西側の探検を終え、東側へ向かおうとした我々の前に驚くべきことが起こりました!壊れていたはずの柱時計の時刻が変わっていたのです!

入って来た時は8時36分を指していた時計が今、11時53分で止まっています。これも誰かの悪戯―――』



その瞬間、ボイスレコーダーから「悪戯なのでしょうか?」という朱里の言葉に混じって、チャイムの音が聞こえてきた。



朱里『えっ・・・?』


『何だ!?』


『チャイム・・・?』



戸惑ったような朱里の声の後に聞こえてきた少年少女の声。

その声を聞いた和則とくるみが目を見開く。


レコーダーからはあの校内放送が聞こえてきた。




『≪校長先生、校長先生、大キナ箱ガ届キマシタ。至急、昇降口マデオ越シ下サイ。繰リ返シマス、至急、昇降口マデオ越シ下サイ≫』




『昇降口ってここじゃ・・・』


『おい・・・見ろよ。何か湧いてんぞ』


朱里『何アレ!?何アレ!?何アレ!?』


『今の・・・不審者放送じゃ・・・・』


『―――下がれ、お前等!』


朱里『拓篤!?待っ―――』



そこでガチャン!という音が流れ、再生は終了する。録音の最中、落としたか何かして切れたのだろう。

くるみと和則は呆然とそのボイスレコーダーを見ていた。


朱里と拓篤は同じ班だった。だから、あの2人が一緒にいるのはおかしくない。

しかし、他の2人は別だ。朱里と拓篤以外の声、あれは紛れもなく・・・



くるみ「悠香だった・・・」


和則「健矢も・・・いたな」


くるみ「何で・・・?どういうこと・・・・?」


くるみ「(まさか・・・)」


和則「健矢と悠香は俺達と一緒に来たはずなのに・・・何で朱里達と一緒に?意味分かんねぇ・・・・」


くるみ「(まさか・・・!)」


くるみ「うっ・・・」



急激な吐き気に襲われ、彼女は咄嗟に口に手を当てる。

嫌だ、嫌だ、これ以上考えたくない、と体が拒絶反応を起こす。



和則「おい、どうした?大丈夫か!?」



体をくの字に曲げ、苦しむくるみ。

すぐさまその後ろに回り、和則は彼女の背を撫でた。


自分の意思とは無関係に小刻みに震える体を抑え込み、くるみは大きく息を吐き出した。



くるみ「ごめん・・・ありがと。もう平気」



それでも和則はまだ心配そうだった。

深呼吸を繰り返し、自分を落ち着かせたくるみがそこで軽く笑った。



くるみ「随分手馴れてるね」


和則「、・・・そりゃ伊達に何年も乗り物に弱い2人の背中を擦ってない」


くるみ「アハハ、そういえばそうだった」


和則「気持ち悪くなったのか?」


くるみ「ポテチ食べた後に全力疾走したのがマズかったのかも・・・(ウソ」


和則「健矢と悠香の声が、コレ(ボイスレコーダー)に入ってんのは何でだと思う・・・?」


くるみ「・・・カズは、何も憶えてない?」


和則「は?何の話だ?」



フッ、と力なく笑うくるみ。


彼女が何事かを口にしようとした時、ふいにどこか近くでカサリと音がした。

床を這うように、カサカサと小さな音が周囲の床を動き回る。



和則「ネズミ・・・?いや、ゴキブリか?」


くるみ「Σえっ、」



カサカサと走り回るソレは、カリカリと爪が引っ掻くような音を立てて後ろの壁面までを這い廻った。それに続いてパシッ、という乾いた音が響く。

それを皮切りに、辺りがたちまち異音でいっぱいになった。



和則「(これ、ラップ音か・・・?)」



この教室だけではない。

教室の外のどこからか、激しい音がする。そして遠くでまた人の叫び声のようなものがした。


ゴロゴロと空も鳴く。

雷嫌いのくるみが「ひぃっ」と零し、耳を塞いだ。


眩い雷光が教室の中を照らす。それと同時に異音が止む。

教室の中が光で溢れ、和則とくるみの目に様々な色が飛び込んできた。






“ た す け て 



“ 助 け て 



“ 死 に た く な い 



“ 痛 い 



“ コ ワ イ 



“ こ わ い 





大小様々な大きさで黒板いっぱいに書かれた文字と、









“ こ こ か ら 出 し て 









廊下に面した窓をびっしりと埋め尽くすようなたくさんの手形と、血文字で書かれたその言葉。

瞬間、大地を震わせる雷が降り注ぎ、くるみが悲鳴を上げた。







To be continued...

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