奇奇怪怪

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朱里「時が・・・止まってるなんて、そんな・・・・そんなことあるわけ、」


楓「もしくは誰かが、その当時のままを保つように掃除なり、何なりをしてるか・・・だけど。もしそうだとしたら何のために?って話だよな」


華澄「(そう・・・何のために、それが私達にも分からなかった)」



彼女はベッドの下にある黒い染みを見つめ、拳を握り締めた。



華澄「(何のために・・・―――私達を閉じ込めるの?)」


楓「信じたくないけど、ここではどんな異常なことが起こってもおかしくない。絶対に1人になるなよ、特に拓篤」


拓篤「チッ」


楓「自分以外の3人から目を離さないようにしよう」



彼女のきっぱりした声に全員が頷く。



朱里「♯3.デコイと鍵。黒いナニカからの強襲を凌ぎ、我々4人の捜索隊は再び行方の分からない7人を捜してここ、保健室までやって来ました。

ベッドにあったのは、健矢の服を着せられたデコイ。これは7人が襲われたことを示すものなのでしょうか。棚から見付かったどこかの鍵。これは一体、どこの部屋の鍵なのでしょう。

異常な廃校捜索。我々が進む先にあの7人は・・・」



いるのでしょうか、そう続けようとして彼女は口を噤む。


逡巡すること数秒。

彼女がまたボイスレコーダーに向かって言葉を飛ばす。



朱里「―――いいえ・・・我々が進む先にあの7人がいてくれることを願うばかりです。♯4へ続く」


楓「皆を見付けて次の録音が最後になってくれたらいいな・・・」


朱里「うん・・・。あ、そうだ。楓、腕掴んでていい?ちょっと、怖いっていうか・・・・不安になってきちゃって(苦笑」


楓「いいけど・・・拓篤と華澄の方が安心じゃない?」


朱里「2人は戦闘員だから両手塞いじゃマズいの」


拓篤「お前も戦闘員だろうが」


朱里「あたしは最弱だよ。どっちかっていうと守られる立場だよ」


拓篤「最弱な奴に火天の太刀なんか習得出来るかよ」


朱里「えー、何それ。褒めてくれるの?」


拓篤「あぁ、ゴリゴリのゴリラだって褒めてるよ」


朱里「むぅ〜っ!」


楓「またそんなこと言って・・・」


華澄「フフ、相変わらず仲が良いわね」


拓篤・朱里「「どこが」」



そんなことを言い合いながら、4人は保健室を出る。

まだ見回れていない場所へ向かおうとする3人とは対照的に、華澄だけが後ろを振り返り、思案気な顔をする。


それに気付いた拓篤が彼女に声をかけた。



拓篤「何か・・・気になることでもあるのか?」


朱里・楓「「?」」


華澄「、・・・ええ。あの黒いのがいないか心配だったの」


拓篤「だといいけどな」



つっけんどんな言葉。

問い返さずとも、華澄には彼が言いたいことが分かった。


だからこそ、彼女はそこで微苦笑を浮かべた。



華澄「あらあら・・・何か疑われてるのかしら」


拓篤「別に。ただの最終通告だ。俺はもう聞かねぇぞ」


華澄「・・・、」


拓篤「朱里、楓、お前等にも言っとく。気になることがあるなら今言っとけ。後で何か言ってきても知らねぇからな。その時はテメェ等で何とかしろ」


楓「後から気になることが出て来た場合は?」


拓篤「知るか」


楓「おいおい・・・」


朱里「じゃあじゃあ、今気になることを何か言ったら拓篤が解決してくれるってこと?」


拓篤「俺1人で解決出来る問題だったらな。今なら解決してやらねぇこともねぇ」


楓「何様だよ、お前」


朱里「別にあたしはないよー。放送のこととか、柱時計のこととか、あの黒いのとか・・・気になることはさっき全部言ったし。

あ、でも慎司達がどこにいるのかは気になる」


楓「同じく」


朱里「華澄は?」


華澄「私は・・・そうね。あの物置部屋の中がどうなっているかはとても気になるわね」


楓「またその話かよ・・・」


華澄「あの部屋の鍵が見付かるといいんだけど・・・」


拓篤「・・・・・・」


朱里「―――?あれ・・・?」



その時、唐突に朱里が辺りを見回した。



楓「?どうした?」


朱里「今、何か・・・」



と言って、辺りをキョロキョロ見回していると、拓篤もピクンッ、と顔を上げて辺りを見回した。

ジリリリリ、という微かな音が2人の耳に届いたのだ。



拓篤「何の音だ・・・?」


楓「音?・・・あ、ホントだ」


華澄「何か聞こえるわね」


朱里「・・・・・・」



両耳の後ろに手を当てて、目を瞑って朱里が耳を澄ます。

どうやら、このジリリリリという音は近くの部屋からしているようだ。



朱里「電話だ・・・。電話が鳴ってる」


楓「放送の次は電話か・・・。本当に電気通ってないんだよな、ここ?」


華澄「そのはずよ」


朱里「どうする・・・?」



電話の音は今も鳴り止むことなく続いている。



拓篤「どうせ中は確認するんだ。行くぞ」


朱里「う、うん」



保健室の隣の部屋。

扉の上にぶら下がっている板に朱里が懐中電灯の光を当ててみると、そこには事務室の文字があった。


電話があってもおかしくない場所だな、と納得する拓篤に、隣から「どうして・・・?」と微かに呟く声が聞こえてきた。



拓篤「(―――どうして?)」



他の2人には聞こえなかったのかもしれない。

恐る恐るといった風に片手が空いている楓が扉に手を伸ばした。


開く扉。

今までに訪れた部屋と同じように中は薄暗い。扉を開けたことで電話の音がハッキリと聞こえる。


明かりを向ければ、中央に向かい合って置かれているデスクが見えた。

電話の音は窓側のデスクからしているようだ。中が安全かどうか一通り明かりを向けて確認してから4人はそちらへ回り込む。


デスクの上には書類やメモ帳、ペン等が出されたままだった。

それらと一緒に置かれている黒電話が今もけたたましい音を響かせている。



楓「黒電話って・・・いつの時代だよ」


朱里「レトロでオシャレだね」


拓篤「言ってる場合かよ」


華澄「怪しさプンプンね」


朱里「これ・・・どう考えても出ない方がいいよねぇ?」


楓「ホラゲーだと出ないと先に進めなかったりするけどな・・・」



引き攣ったような笑みを浮かべて彼女はそう言った。



華澄「ホラー映画だと出ると呪われたりするわね」


朱里「だよね・・・」


拓篤「電話線切るか」


楓「切っても鳴り続けるパターンだったらどうするよ」



彼女が言い終わる前に拓篤が電話線をナイフで断ち切る。

黒電話は―――、







  ジリリリリ!







鳴り響いたままだった。



4人「「「「(パターン・・・!)」」」」


華澄「受話器を取るだけ取って、すぐに下ろすっていうのはどう?」


朱里「天才!天才の発想だよ。それでいこう!拓篤、やっちゃって」


拓篤「俺かよ」


朱里「あたし達は耳塞いでおくね!」


拓篤「(俺1人呪われろってか・・・。ったく、)」



ハァ、と深いため息を吐く。

鳴り止まない黒電話にうるせぇな、と内心でぼやきながら彼は受話器を取った。


耳にあてずに、華澄が言った通り彼はそのまますぐに下ろそうとして―――






『もしもし・・・?』






拓篤「は・・・?」



受話器から聞こえてきた声を耳にして固まった。

その声には、聞き覚えがあったのだ。聞き覚えが、あり過ぎた。


耳を塞いでいた女子3人が受話器を下ろさない拓篤を不思議そうに見る。

どうしたのだろう、とそれぞれが耳を塞いでいる手や指を放した。


驚いたように目を見開いている拓篤が電話の向こうにいる人物に問いかけた。



拓篤「お前・・・













―――瑠璃か?」









華澄・楓・朱里「「「!?」」」


朱里「え、瑠璃?ウソ!?ウソ!?」


楓「無事なのか!?」


華澄「皆も一緒?」



矢継ぎ早に投げかけられる質問に電話の向こうの彼女が軽く笑ったような気配がした。

そして、心の底から安堵したような声で・・・




『・・・良かった。ちゃんと・・・・繋がって』



拓篤「?お前、今どこからかけてるんだ?」



『そこにいるのは・・・拓篤と、楓と朱里と華澄・・・・であってる?』



朱里「うん、そうだよ。瑠璃達を捜してたんだ」



『うち等を?・・・そっか。そっちではそうなってるんだ・・・・』



拓篤・楓「「(そっちでは・・・?)」」


華澄「!」
華澄「(まさか、)」



『・・・ごめんね。ちょっと、変なこと聞いてもいいかな・・・・?』



朱里「?なぁに?」



『2−1教室には・・・もう行った?』



楓「ああ、行ったよ」



『そこにさ・・・正の字が書いてあったと思うんだけど・・・・アレ、いくつになってた・・・?』



朱里「正の字?―――あぁ、あの黒板の?確かアレは・・・」


拓篤「13だ」



彼がそう言った時、電話の向こうの彼女が「っ、」と息を詰まらせたような気がした。



拓篤「おい、瑠璃。お前、アレがどういう意味なのか知ってるのか?」



『・・・知ってる。だけど知らない。憶えてない・・・・』



拓篤「(憶えてない・・・?)」


華澄「、」


楓「それってどういう・・・?」



『うちはきっと・・・また忘れる。だから、忘れる前に伝えておくね・・・・。

華澄、楓、朱里、拓篤・・・これから、何が起きても・・・・どんなことになっても、―――絶対に諦めないで』



華澄「・・・、」



『諦めなきゃ・・・何度だってやり直せる。それから・・・・これはカズに言ってほしいんだけど、』



朱里「カズに?一緒じゃないの?」



『、・・・うん。もう・・・・皆、バラバラになっちゃったんだ。だから4人がカズを見付けたらこう言って。「約束はもういい」って』



楓「約束?」



『そう・・・約束。ずっと前にした約束。それのせいで、』








その時だった。





電話の向こう側からピンポンパンポーン、という音割れした甲高いチャイムの音がした。

次いで、校内放送が流れる。




《校長先生、校長先生、大キナ箱ガ届キマシタ。至急、事務室マデオ越シ下サイ。繰リ返シマス、至急、事務室マデオ越シ下サイ》





華澄・楓・朱里・拓篤「「「「!?」」」」


楓「は・・・?え?今、」



『ごめん・・・もう時間ないみたい』



朱里「待って!瑠璃!本当にどこにいるの!?今の放送・・・こっちは流れてないんだけど!?」



『ここ・・・?ここはね、















―――過去だよ』












彼女がそう言い終えたと同時に、受話器からグシャッ!と。何かが潰れた音がした。












To be continued...

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