奇奇怪怪

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華澄「あらあら・・・」



西側廊下から昇降口に戻って来た華澄、楓、朱里、拓篤の4人。

先程代わりに持ってろ、と渡された拓篤のライトで華澄は近くにある柱時計を照らして困った風に言った。



華澄「見て。また時計が動いてる」



柱時計が示す時刻は3時26分。



華澄「・・・どうしてこの時計は見る度に時間が変わるのかしら」


拓篤「んなこと今どうでもいいだろ」


朱里「放送も!電気が通ってないのにどうして鳴ったんだろう」


楓「あの黒いのも、何であたし達を襲ってきたのか分からないしな・・・」


拓篤「お前等もかよ・・・」



分からない問題。答えの出ない問題を論じて何になるのだ、と拓篤はげんなりする。



朱里「そもそも柱時計ってなにで動くの?電池?」


楓「んー・・・これは振り子の運動エネルギーを利用してる感じだな」


華澄「でもその振り子は止まってる。だから時計も止まってる。じゃあどうして時間が変わったり、鐘の音が鳴ったりするのかしら?」


朱里「はい!」



素早く挙手をした彼女が答える。



朱里「誰かが動かしてるとか」


華澄「何のために?」


朱里「あたし達を・・・驚かすため?」


華澄「それをして何のメリットがあるのかしら」


朱里「う〜んと・・・―――あ!じゃあ、これは?この時計に何か仕掛けがしてあるとか!」


楓「!烏丸蓮耶の財宝を出現させるスイッチか!」


拓篤「おいおい・・・」


楓「〈2人の旅人が天を仰いだ夜・・・。悪魔が城に降臨し、王は宝を抱えて逃げ惑い・・・王妃は聖杯に涙を溜めて許しを乞い、兵士は剣を自らの血で染めて果てた〉」


朱里「Σそこまで憶えてるの!?」


楓「〈このゲームから降りる事は不可能だ・・・。君達は・・・私が唱えた魔術に・・・もう既に・・・かかってしまっているのだから・・・〉」


朱里「おねがーい、楓。コナンの世界から戻って来て」


楓「つまり、時計を0時に合わせてそこからトランプの絵柄の向きに左に13、左に12、右に11に動かせばいいんだな!」


朱里「どうやら烏丸蓮耶に取り憑かれていたのは楓だったかもしれないね・・・(苦笑」


楓「誰が千間の婆さんだと?あたしが好きなのはキザな悪党だよ!」


華澄「マンガの話はよく分からないけど・・・何か仕掛けがあるかもって話は興味深いわね」



と言って、彼女は柱時計に近付く。

まず最初に華澄が触れたのは柱時計の振り子室の扉だった。



華澄「(狼と7匹の子ヤギだと・・・ここに子ヤギが隠れてるのよね)」



さすがに自分達のような人間の子供が入れるサイズではないか、と失笑。

そして「まぁ、バラせば入りそうだけど」と物置部屋の前で言ったような言葉を頭の中で続けた。


枠が痛んでいるのか、腐っているのか扉を開けるのに少し力が必要だった。

開いた扉。華澄はすぐに中をライトで照らす。


止まったままの錆びた振り子。その下に、



華澄「!これは・・・」


朱里「何かあったの?」


華澄「ええ。けど、どうしてこんなものが・・・」


3人「?」



華澄はそこにあったモノを手にする。

そうして、後ろにいる3人に見えるようにその手を付き出した。


それは、



朱里「何これ・・・?」


楓「バルブか・・・?」


拓篤「みたいだな」



華澄の手にあるソレは所々錆びていた。

まじまじと見ていた楓が眉を寄せながら唸る。



楓「けど、何のバルブだろ・・・。水道?ガスか?」


朱里「慎司達が入れたのかな?」


拓篤「それこそ何の為にって話だろ」


朱里「そうなんだけどさぁ・・・」


華澄「他には変わったものはなさそうね。このバルブは・・・どうしましょう?」


楓「一応持っとこう。そういう道具系って脱出ゲーとかホラゲーで後々必要になってくるものだし」


朱里「楓ならそう言うと思った(苦笑」


華澄「じゃあ楓に預けるわ」


楓「うーい」



バルブを楓に託し、華澄はまた柱時計にライトを当てる。

文字盤には何も変わったところがない。前面もまた然り。背面は壁にピッタリと引っ付いていて見ることが出来ない。

左の側面を見てみる。何もない。最後に右の側面を見る。



華澄「・・・あら?」



そこで見付けた。

真正面から撮られていた写真には写らない場所。


右の側面。その背面側に長さの違う3本の線があった。


上から数えて2つ目の1番短い1本は刃物か何かで付けられ、

残りの同じぐらいの長さの2本は黒のマジックか何かで書かれ、その横にこれまた刃物か何かで五芒星の傷が深くつけられていた。



華澄「何かしら・・・これ」



普通に考えるならば、この場所が廃校になる前に通っていた子供達が身長を測るため、もしくは比較するために付けた印のように思える。

しかし、華澄にはそう思えなかった。何故か。それは、その線や五芒星が書かれている場所が問題だった。


柱時計、通称ホールクロックは高さが2m前後の代物だ。目の前にある時計もおおよそ180cmといったところだろう。

真ん中辺りや、真ん中上に3本の印がついていたのであれば、華澄も誰かが身長を測るのに付けたのだな、と思えた。


だが、実際この3本の印がついていた場所は下。床から20cmほど上の部分だった。ここまで小さい人間はいない。

とするならば、この印が意味するものは何だ、と首を捻らせる。



楓「星・・・五芒星・・・・陰陽道・・・―――!ハオか!?」


拓篤「いい加減にしろよ、腐れマンガ脳


朱里「この場に未来がいなくてよかったって本気で思うよ・・・」


華澄「これだけじゃ、元々あったものなのか慎司達がつけたものなのか分からないわね・・・」


拓篤「謎解きは俺達の専門外。それでいいだろ」


朱里「楓、今の正確な時間は?」



自分達の班の時計係である楓に尋ねれば、彼女は自身の左腕にしている腕時計に目を落とす。



楓「4時51分・・・。まずいな。もう5時だ」


朱里「未来と泰雅・・・いつ来てくれるだろう」


楓「出来るなら中と外に分かれて脱出方法を見付けたいけど・・・連絡手段がないしな・・・・」


朱里「うん。・・・せめて、6時までには皆を見付けたいね」


拓篤「ならさっさと行くぞ。今度はいちいち教室の中まで見て回る余裕はねぇからな」


華澄「ええ。扉を開けて、中に誰もいなかったら先に進みましょう」


朱里「OK」
楓「分かった」



歩き出す4人。


最初の教室、1−2教室には何も、誰もいなかった。教卓や机、椅子は綺麗に並び、黒板にも何も書かれていない。

1番最初に見て回った2−1、2−2教室と同様に教室の後ろには木製の棚があった。升目のように区切られた、扉のないロッカーのような造りだ。そこにもライトを当てて見える範囲には何もなかった。

その上には紙粘土で作られた生徒の作品が置かれたままだ。埃は疎か、日焼けをしたような感じもない。




次の1−1教室も椅子と机の数が違うだけで1−2と全く同じだった。


1−2、1−1教室の向かい側の教室はどうやら学習室らしい。

壁に貼り付けられた小さな本棚と長机が並んでいた。華澄と朱里がライトを四方に向けて中を確認するが、ここにも何も、誰もいなかった。



東側廊下に出て1番初めに見えたのは、西側廊下と同じ上へ続く階段とその左横にある小さな部屋。この部屋は掃除用具入れとして使われていたらしい。

箒やちりとり、モップ等が数本置いてあった。


階段の右横は保健室だったらしい。ドアを開けると、何故か消毒液の臭いが鼻を突いた。華澄がそれにいち早く反応する。



華澄「誰か・・・ここで手当てでもしたのかしら」


朱里「やっぱり慎司達、ケガしてるとか?」


楓「あの黒いのに襲われて・・・じゃなかったらいいけどな」



拓篤「・・・・・・」



朱里達の話を耳に入れつつ、彼は中に視線を巡らせる。

先生用の机の上には観賞用だろうか。小さなサボテンがいくつか置いてあり、その横に水が入ったままの霧吹きが置いてあった。


身長計や視力検査器といったいかにも、なものが部屋の隅に固められ、壁には引き出しや棚が並んでいる。

部屋の奥には2つのベッドが並んでいたが、奥側のベッドはカーテンで遮られていて全く見えない。



拓篤「華澄、朱里、どっちでもいい」



奥のベッドを照らせ、と彼が顎でライトを持っている彼女達に告げる。

華澄と朱里が顔を見合わせる。朱里は視線であたしがやる、と示し、持っている懐中電灯の明かりを奥のベッドへ向けた。


右手にナイフを構えた拓篤が慎重に近付く。

そして、勢いよくカーテンを開けた。









血で汚れた子供の服を纏ったモノが、ベッドに座り込んでいた。










拓篤・華澄「「!!」」


朱里「え―――」
楓「は―――」










タオルか何かをビニール袋に詰め込んで作られた顔。

枕に服を着せて作られた胴体。


人形やマネキンと呼ぶにはあまりに不格好な“ソレ”はただ静かに、身動きもせず、ベッドの上に座っている。









楓「どういうこと・・・?」










静寂に満ちた保健室に、彼女の呟きが酷く響いた。











To be continued...
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